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【今やるべきことは何か】アルコールチェック義務化に向けて

「ついに」というべきか「ようやく」というべきか…。道路交通法施行規則の改正により、これまで「緑ナンバー」だけだったアルコールチェックの義務の対象が、「白ナンバー」にまで拡大されます。

そのため、白ナンバー事業者は義務を遂行するうえで不可欠となる「アルコールチェッカー」の準備に追われていますが、それに先立って同年4月からは検査結果の記録保存義務が始まることを考えると、単に道具をそろえるだけでは不十分です。そこで今回は、アルコールチェックの義務化が段階的にスタートするまで半年を切った今、自動車を日常的に使う白ナンバー事業者が実施すべきことは何か、詳しくまとめました。

【今やるべきことは何か】アルコールチェック義務化に向けて

アルコールチェックの義務化から対象拡大へ進んだ経緯

今春の法改正で義務化の対象となる白ナンバー事業者とは、人員の移動や物品の輸送を目的に、「乗車店員11名以上の自動車を1台以上、またはそれ以外の自動車を5台以上」保有している事業者のことを指し(道路交通法施行規則9条の8)、警察庁1によると、その数は全国で約34万に及びます。

その管理下にある約782万人ものドライバーが、アルコールチェックの対象になることを考えると、経済に与える影響は非常に大きなものになりそうですが、なぜ今このタイミングで、義務の対象が白ナンバーにまで広げられたのでしょうか。

1【引用】警察庁. 「デジタル臨時行政調査会作業部会 御説明資料」2022年3月15日. https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/53b4de13-8b03-4132-aafe-e3de340ae53e/20220315_meeting_administrative_research_working_group_outline_02.pdf.

飲酒運転の厳罰化につながった2つの事件

最近運転免許を取得したばかりの方や、今後取得することになる若い世代には信じられない話かもしれませんが、1960年の道路交通法(以後「道交法」と記載する)成立当初から、今と同様に飲酒運転(※)は禁止されていたものの、驚くべきことに違反しても罰則規定というものは存在しませんでした。
※呼気1L中のアルコール量が0.25mg以上の場合のみ

その後、高度成長期に入り自動車の台数が飛躍的に増加してきたことに比例し、飲酒運転を原因とした重大事故も激増、その事実を受け1970年には呼気中アルコール量に関係なく飲酒運転は禁止となり、以下のとおり罰則が課せられるようになりました。

■ 酒酔い運転(※)・・・違反点数:15点、罰金等:2年以下の懲役または10万円以下の罰金
■ 酒気帯び運転(0.25mg以上)・・・違反点数6点、罰金等:3月以下の懲役または5万円以下の罰金

※酒酔い運転の定義・・・呼気中アルコール量に関係なく、「アルコールの影響により正常な運転ができないおそれがある状態」にあることを指す。

しかし、罰則が規定されても内容が軽いためか、飲酒運転による事故の増加にまったく歯止めがかからず、1990年代に入るとついに年間2万件を突破。そして1999年11月、東名高速道路のパーキングで飲酒したドライバーが運転するトラックが、家族4人が乗る乗用車に追突、うち子供2人が亡くなるという、悲惨な事故が発生してしまいます。

この事故を受け、2001年に「危険運転致死傷罪」が新設され、従来までの「交通事故の加害者に故意はない」という前提を覆し、飲酒運転という悪質な違反を伴った場合には、最高刑を懲役15年とする厳しい罰則が科せられるようになりました。また、その翌年には事故を伴う・伴わないに関わらず、飲酒運転自体の基準(呼気アルコール量が0.25mg/Lから0.15mg/Lまで)が引き下げられ、併せて罰則も以下の通り大幅に厳しくなったのです。

■ 酒酔い運転・・・違反点数:25点、罰金等3年以下の懲役または50万円以下の罰金
■ 酒気帯び運転(0.25mg以上)・・・違反点数:13点、罰金等:1月以下の懲役または30万円以下の罰金
■ 酒気帯び運転(0,15mg以上0.25mg未満)・・・違反点数:6点、罰金等:1月以下の懲役または30万円以下の罰金

ただ残念極まりない話ですが、罰則が厳しくなるとそれを逃れようとする不逞の輩が出てくるもの。2006年には市役所職員の飲酒事故隠ぺい未遂事件が発生し、大きな社会問題に発展します。

その手口とは、危険運転致死傷罪をなんとかして免れようと、一旦事故現場を離れ大量の水を摂取し、アルコール反応が出なくなるまで時間を空けてから自首するという、実に悪質かつ稚拙なものでした。この事件は重く見られ、その翌年に再発防止のため、同様の手口を講じた加害者に対し、最高刑を懲役12年とする「過失運転致死傷(アルコール等影響発覚免脱)罪」が新設されました。

さらに、2007年・2009年にも相次いで飲酒運転に対する罰則は改定され、現在では以下のように非常に厳しいものになっています。

■ 酒酔い運転・・・違反点数:35点、罰金等5年以下の懲役または100万円以下の罰金(道交法117条の2第1号)
■ 酒気帯び運転(0.25mg以上)・・・違反点数:25点、罰金等:3年以下の懲役または50万円以下の罰金(道交法117条の2の2第3号)
■ 酒気帯び運転(0,15mg以上0.25mg未満)・・・違反点数:13点、罰金等:3年以下の懲役または50万円以下の罰金(道交法117条の2の2第3号)
※違反点数は道交法施行令 別表第二より

緑ナンバーへのアルコールチェック義務化も効果はあったが…。

いずれも事件・事故があった後の措置で、見方によっては「遅きに過ぎる」かもしれませんが、数度に及ぶ厳罰化によって飲酒運転を原因とする事故が、年々減少してきたことは事実です。加えて、2011年からは「人や物品を運ぶことで報酬を得ている車」、つまり緑ナンバー車に対するアルコールチェックが義務化されたことで、飲酒事故による死亡者数が最悪期の5分の1にまで減りました。

そんな中、まだ記憶に新しい2021年6月28日の午後、千葉県八街市で下校中だった小学生5名の列にトラックが突っ込み、うち2名が死亡、1名が重体、2名が重傷を負うという、非常に痛ましく、そして激しい怒りを覚える事故・事件が発生してしまいました。事故発生当初は、狭いながらも直線で見晴らしの良い道路で起きた重大事故の原因について、「ガードレールがない」や「交通量が多い割に信号がない」など、児童たちが日常的に使う通学路としての安全性に焦点が集まっていました。

しかし、警察による捜査が進むと、被害車両のトラックを運転していたドライバーが、あろうことか業務中にもかかわらず飲酒、その影響による居眠り運転が直接の原因であると判明。運転業務に携わっているにもかかわらず、業務中に飲酒するなんてことは言語道断ですが、加害者は自社の資材を「無償」で運搬するトラック、つまり「白ナンバー車」のドライバーであるため、業務前のアルコールチェック義務がなかったのです。

「飲酒運転にナンバーの差なんて関係ない!」という世論の高まり

緑ナンバーと白ナンバーの違いは、報酬を得ているか否かという点だけで、交付されるナンバーの色以外は、車種が同じならサイズ感も重さも、法定速度などの守るべき交通ルールも、何より「飲酒運転時の危険性」も同じです。

ところが、千葉県八街市で事件を起こした車両がそうであるように、殺傷力が軽自動車やコンパクトカーより圧倒的に高い大型トラックなどが、「緑ナンバーでなくてはならない」というルールも法律もありません。

本来、「運転するなら飲酒をしない」のはドライバーが守るべき最低限のルールですが、このような痛ましい事件が発生した以上、業務前のアルコールチェックという予防措置を、白ナンバーでも法律で厳しく義務化すべきであるという流れになったのです。

責任重大!「安全運転管理者」が行うべき管理項目

アルコールチェックが義務化される白ナンバー事業者は、所有している自動車の安全な運転に必要な業務を行わせるため、現行の法律に則りもれなく「安全運転管理者」を選任し、管轄の公安委員会へ届出を済ませているはずです。

安全運転管理者の行うべき管理業務は、

(ア)運転者の適性の把握

(イ)運行計画の作成

(ウ)危険防止のための交替運転者の配置

(エ)異常気象時の安全運転の確保

(オ)点呼・日常点検による安全運転の確保

(カ)運転日誌の備付けと記録

(キ)運転者の安全運転指導

などと多岐にわたりますが、(道交法施行規則9条の10)新たな業務として、酒気帯びの有無の確認及び記録の保存(2022年4月~)と アルコール検知器の使用等(2022年10月~)が追加されると考えられます。

1 酒気帯びの有無の確認

第一に、安全運転管理者は、従来実施していたドライバーの健康状態確認に加え、体内にアルコールが残留していないか、目視のほか測定器具を使ってチェックする必要があります。業務中に飲酒していないかはもちろん、前日の飲酒で運転に影響が出ないか、酒気帯び運転として検挙される基準に達しているか否かに関わらず、一人ひとりの体調や勤務状況などを加味して、慎重かつ正確に判断しなくてはなりません。

また、従来業務と関連して、深酒が習慣化している従業員を運転業務から除外したり、関連部署の営業車運行計画を見直したり交替運転者を配置するなど、追加的な対策を取ることが考えられます。

2 測定結果の記録保存とその管理

安全運転管理者は毎日実施するアルコールチェックの結果は、別途作成した点呼記録簿や既に備え付けてある運転日誌などに欠かさず記録し、保存・管理しておかねばなりません。

測定機器本体に保存されている記録を手書きで書き写すのも良いですが、検査対象が多いと手間がかかりますし、転記ミスが発生する可能性も否定できません。アルコールチェッカーの中には、USBや専用ソフトを用いパソコンと接続すれば、測定結果をデジタル管理可能な商品もリリースされているので、それを活用すると管理業務が効率的かつ確実になります。

3 アルコールチェッカーの保守管理

アルコールチェッカーは、呼気を吹きかけるだけで体内アルコール値を測定できる便利なアイテムですが、毎日使っていれば故障することもありますし、内蔵されているセンサーの使用回数には限度があります。そのため、安全運転管理者は、所有しているアルコールチェッカーが正確に作動しているか状態をチェックし、場合によっては修理・メンテナンスに出したり、買い替えを提案したりする必要があります。

「飲酒事故ゼロ」を実現するには「+α」の要素も必要

前項で触れた①~③までの業務をこなせば、今春を予定されている道路交通法施行規則の改正内容には対応の準備が完了することでしょう。しかし、アルコールチェックが義務化される真の目的は、千葉県八街市で起きたような痛ましい飲酒事故をこの世からなくすこと。そのために、以下で示す「3つのポイント」も同時に抑えておきましょう。

業態に合った測定機器の適切な選択

アルコールチェッカーには検査方式や記録保存方法によってさまざまなタイプがあり、自社の業態や規模にあった端末を選ばなければ、余計な労力や時間、コストがかかってしまいます。測定装置の適切な選択も安全運転管理者の重要な業務ですので、この記事を参考にご検討ください。

相互チェック体制の構築と情報の共有

これは、お互いに監視し合うという意味ではなく、あくまで体調を気遣う延長線上として、従業員同士が気軽に「今日の調子はどう?」と、声を掛け合える雰囲気作りをしましょうということです。飲酒自体は、スピード超過や信号無視と違って20歳以上の方に認められている権利なので、経営者や管理者が頭ごなしに「控えなさい」と言っても、簡単に身に付いた習慣を変えられるものではありません。

千葉県八街市の事件でも、加害者の明らかな過失に批判が集まっていますが、「その状態で運転すると危険だよ!」と忠告してくれる人間関係があれば、事故を未然に防ぎ尊い命が失われることもなかったかもしれません。

検査結果を活用した安全運転教育の徹底

前述したように、「飲酒」と「運転」を切り離すには、縦割りだけではなく横のつながりも大切ですが、万が一飲酒事故を起こしてしまった場合、会社にどれほど甚大な被害を与えるかについては、経営者や管理者がしっかり教育しておく必要があります。また、晩酌程度で翌日の業務に全く影響を及ぼさないなら一向に構いませんが、深酒が習慣化して頻繁にアルコールチェックに引っかかる従業員がいるようなときは、本人とよく相談したうえで、医学的な治療を促すことも大切です。

まとめ

これらはあくまで「飲酒事故ゼロ」という、人類共通の目的を果たすための「手段」でしかありません。「飲んだら乗るな!」という格言を心にもう一度刻み込み、1つ1つの業務の精度を上げていくしか、飲酒事故ゼロを達成する方法はないと筆者は考えています。

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