コロナウイルスが物流に与える影響とは?物流業界の現状
首都圏がロックダウン−−
都心部での感染者が一気に急増し、このようなニュースが新聞やネットでも数多く掲載されています。
店舗の休業やリモートワークが増え、自宅にいることが多くなった今、再び問題になっているのが買い占めです。各地で「モノが足りない」「輸入がストップしている」という声が上がっている中、物流業界はどのような状況に直面しているのでしょうか。
目次
マスクが、トイレットペーパーが、食料が…買い占め急増で物流が混乱
マスクがどこにも売っていない。それどころか、ペーパー類、衛生用品、アルコールスプレー類もごくわずかしか棚に並んでいない。スーパーではカップ麺や菓子類、レトルト食品、飲料水が品切れ…少し前まではこんな光景を目にするとは誰もが思わなかったことでしょう。
2月後半に「トイレットペーパーが不足する」というデマがSNSを中心に広がり、ドラッグストアにはマスク以外にもペーパー類を買い求める客で一時期いっぱいになりました。この騒動を受け、制作元が国内で作っているので不足することがないと発表したものの、海外のロックダウンがニュースで続々と発信され、ガラガラになったスーパーの様子やペーパー不足という言葉を目にしたこと、小池都知事の会見によって人々が不安になったことで、再びスーパー、ドラッグストアでの買い占め行為が加速することに。
どこの店舗も在庫がわずかになれば必要な人に必要なものが届くよう、モノが売れたら補充すべく、いつもより多めに発注をかけます。そのうえ、何週間にもわたる外出自粛によって、ネットでの買い物も集中。ネットスーパーも活況です。しかしそうなると、いつも以上に稼働が増えるのが配送トラックです。大量の発注により、荷受作業が混雑し、物流センターではトラックが数時間待ちという事態が発生しました。一時的に、いつもの倍のトラックが稼働を必要とされました。
車両管理システムの導入などによって業務効率化に取り組んでいる企業も増えていますが、生活に必要なトラックドライバーは高齢化が進み、慢性的な人出不足に悩まされている中、追い討ちをかけるかのごとく物流業界への負担が大きくなっているのです。
【調査により現状を知る】物流への影響はどうなっているのか
日本ロジスティスクシステム協会が3月18日に公開した「新型コロナウイルスの感染拡大による物流への影響」の調査結果では、「新型コロナウイルスの影響により、物流面で課題が発生したか」という問いに対して、物流企業では「一部で課題が発生した」が43.3%、「全社的な課題が発生した」が14.44%、規模は異なりますがおよそ60%は課題が発生したと答えていました。それぞれの課題においては、次のような回答が上がっています。
・品目によって輸送量の増減が発生
・入荷の大幅な遅れと急な出荷対応
・荷主企業から運転手のマスク着用を義務付けられたが、入手困難のため苦慮している
・海外からの輸入・輸出が停滞し、配送業務が一部なくなった
・学校休校に伴い、人員調整が必要となった
・倉庫内作業や納品現場ではテレワークなどが不可能なため、安全上の配慮が難しい
・急遽航空会社の運休により、緊急輸送案件の大変えルート計画に苦慮している
この調査では、荷主企業および物流企業から次のような要望・意見があげられていました(一部を抜粋)。
・大量の受注増の商品については出荷制限を設けてもらう
・発熱があった場合、出社させない措置を取っていただきたい。当日の便建てに影響が出た場合、遅延を認めてもらいたい
・消費激減による有給インフラ(倉庫、トラック、人材など)の業界内でのシェアリングについて検討してほしい
・過剰に反応するのではなく、状況を冷静に判断していただきたい
このような声が上がる一方で、今後想定される課題として、企業の業績悪化や長期的に経済が悪化することへの懸念、ドライバーの確保、日本発着の乗り入れ航空会社の減少による運賃高騰、パンデミック時の輸送断裂と困難なトラッキングなど、業界としては多くの課題に直面しているのです。
配送車が増える一方で、苦戦を強いられる路線トラック輸送
新型コロナウイルス拡大を防止として、工場休止や在宅勤務など、経済活動が急速に低下しつつあります。日本企業の多くが安価に製造・仕入れができるという理由で中国に多くの工場を持ち、輸入を頼っている部分がありました。それだけではなく、世界最大の小麦輸出国のロシアは国内供給を優先し、4~6月の穀物輸出量に制限を設けるなど、他国でも3月半ばより食料輸出規制がかかり、世界の食料貿易に影響を及ぼしています。
中国からの資材輸入が幅広い分野で激減したことで、配送量が大幅に減少。中国の工場では一部稼働を再開したところもありますが、人員が限られており、日本への輸入までに時間がかかっているのです。このように、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、輸送量が減り、止むを得ず休車となるケースが増えたことで、売り上げが落ちる企業も。
不特定多数の荷主の荷物を中長距離で運ぶ路線トラック。その最大手であるセイノーホールディングスは2020年3月期の通気業績予想を、売上高6360億円(前期比2.8%増)から6260億円(前期比1.2%増)に、営業利益328億円(同5.1%増)から296億円(前期比5.2%減)に下方修正しました。また、名鉄運輸も2月に業績予想を下方修整しています。これには、コロナウイルス対策で荷動きが急減したこと、昨年10月より実施された消費増税による運賃の値上げに加え、日用品、アパレルの荷物量低下、店舗の営業自粛など、いくつもの原因が重なったことが考えられます。
ただでさえ人出不足なのに…需要が拡大する物流業界を救うのは
激動の物流業界ですが、安定した物流を共有すべく、今の状況を打破しようとさまざまな取り組みが進められています。
貨客混載でドライバー不足を解消する
佐川急便と山城ヤサカ交通では、宅配事業の生産性向上と地域の交通インフラ活性化を目的に、2018年より乗用タクシーでの貨客混載が開始されています。外出自粛によって人々の移動が制限されているため、最近はタクシーの乗客は激減。しかし、この取り組みが全国にも広がれば、タクシードライバーは職を失うこともありませんし、人手の足りない配送トラック業のフォローができるため、互いに取って課題を解決する良い施策になり得るかもしれません。
楽天は3月11日より、岡山市と瀬戸市内において、バス路線網を活用した新たな貨客混載輸送と配送を行うと発表。SGホールディングス傘下の佐川急便とJR北海道は、新幹線を使った宅配便が北海道や九州などで実用化の段階に入ったとしています。旅客用車両の空席を活用した貨物を運ぶ貨客混載の形式は、トラックの運転手不足や移動制限による新幹線の乗員数低下を防止する策としても期待されています。
アメリカではアマゾンが雇用を手助け?
ネット通販最大手のアマゾンでは、一斉休校やリモートワークの普及により、配送荷物が急増しています。外出禁止とされている各国でも、ネット通販の利用率は急増、今後も伸びていくと言われています。
3月16日、アマゾン・コムは通販の需要が爆発的に増えていることをあげ、新たに何10万人を雇用すると発表しました。深刻なドライバー不足は日本だけでなく、米国やカナダ、欧州でも同じようで、この発表と同時に最低時給の引き上げも宣言しています。
国内でも、需要が伸び続ける業界をフォローするためにも、そして何より人々の生活を支え経済を回していくためにも、深刻なドライバー不足を解消する策として早急な賃上げ策が必要なのかもしれません。
私たちの生活に、物流は欠かせないもの
もしも、欲しいものが欲しい時に買えなかったら?必要なものが買えなかったら…?
新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、買い物が制限され、必要なものを購入するのさえ大変な苦労を伴う地域もあります。
物流業界も今は非常に困難な時かもしれません。しかし、サプライチェーンは需要が増えている商品を24時間体制で増産し、事業継続と製品供給を止めない体制づくりの構築、生産ラインの部品を切らせないように、中国のサプライヤーや物流会社などと日々連絡を取り合いなどして、サプライチェーンを維持しようと努めています。また、運送業や倉庫業は、他者や業者への情報確認をしながら遅延を確認、顧客に配送の多チャネルを提案する、製品出荷の準備を早急に進める、イレギュラーなオーダー、特例需要への積極的な対応を進めるなど、人々の生活を支えるために必死に、協力しあって途絶えないようにしてくれているのです。
欲しいものを確実に届けてもらえる、そして生活を支えているのは物流が円滑に動いているからということを、私たちも忘れないようにしたいものです。