ラストワンマイル、解決への道はロボットか?
「配送が遅れてしまう」「荷物を届けるドライバーがいない」
荷物を送り届けるまでの最後の区間 — 前回は物流におけるラストワンマイルとは何かについてお伝えしましたが、解決への道のりはまだまだ遠く、多くの改善すべき問題があります。
増え続ける荷物の集配に反比例するかのように減り続ける人の手。2017年2月、Eコマースなどのラストワンマイル輸送の多くを担っている最大手宅配事業者が、ついに労働組合から会社に対し総量規制を求め、ドライバーの労働条件改善に向けてサービスの絞り込みや料金の見直しを行うために動き出しました。
根本的な解決に向けて、配達側と受取側はどのような状況を理解し、解決に向けての行動を起こすべきなのでしょうか。
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ラストワンマイルの現状。問題の構造はどこにある?
宅配大手企業のヤマト運輸が2017年6月から12〜14時の配達時間を廃止しました。ドライバーの感覚によれば、1日のうち時間指定があるものが3割、ないものが7割程度。実はこの時間指定が「効率よく最速で配送を行う」ことを阻害しており、このシステムがなくなれば、ドライバーは最適かつ最短のルートでの配送が可能になるかもしれないといいます。
そのため、この施策における効果はあくまで部分的なものであり、全体的にはまだまだ解決への道は遠いよう。ヤマト運輸の2017年7月における宅配取り扱い個数は1億8,570万個、前年比は103%。今後は取り扱い個数を抑制し、利益の改善や再配達の減少へ向けての対策を進めていますが、同社以外にも物流業回におけるラストワンマイルの解決が課題になっています。
1日平均250〜300個の荷物を朝早くから夜の8〜9時ごろまで、指定された時間と場所に運ぶドライバー。ドライバーは毎朝、営業所に着くと、まずはその日の配送ルートをもとに配達エリアの住所・時間指定などに仕分けされた荷物をトラックに積み込む作業を行います。単純に最後に届ける荷物は奥につめこむ、というのではなく、顧客の生活習慣や荷物を届ける地域の状況(その日に地域の催しなどがあるとトラックで侵入ができず、渋滞にはまる可能性もあるため)や曜日、建物の特性などを網羅した上で積まないと効率的に届けることができないのです。
たとえば、その日の荷物の配達先の多くがマンションの場合、平日の午前中は不在が多いため、備え付けの宅配ボックスに荷物を預けることが想定されます。しかし、マンションの宅配ボックスは戸数よりも少なく設置されていることが多く、そうなると他社の宅配ドライバーと限られた宅配ボックスを取り合うような状況を避けるためにも、まずはその荷物を優先して朝一番で届けておくというやり方も考えられます。
数多くの荷物を効率よく届けるために、配送スタッフがどれほど多くのことを考慮しなくてはいけないかということがわかります。逆に言えば、配送経験を積んでいくことで得られるこういった感覚や視野がない限り、限られた時間内で効率的にノルマの配達個数をこなしきるのは簡単ではないという状況なのだということも想像できます。
午前中は1個あたり平均して1分ほどで手際よく配送し、100個ほどの荷物を届けます。これは住宅密集地であろうとなかろうと、無駄のない配送ルートの設計とドライバーが手際よく配送先へトラックを走らせ、さらには荷物を届ける家から家まで全力疾走で移動しているからこそ、可能になっていること。みずほ証券エクイティ調査部が作成した宅配回数とトラックの停車時間によれば、トラックの平均停車時間は6分未満、平均移動時間は長くて2分。分単位の綿密かつ迅速な行動によって、荷物が届けられていることがわかります。
また、ドライバーは届け先が不在だとわかっていても送り主から指定された時間に荷物の配送をしなくてはなりません。届け先の人の帰宅がいつも遅く、荷物の受け取りがままならないとしても、不在通知をポストに投函し、荷物を届けにきたことを知らせなくてはならないのです。この作業も積み重なればドライバーにとっては大きな負担になり、ラストワンマイルを遠ざける一因となります。これだけ多くの荷物を届けるためには、効率を考えるとたとえ1分でも惜しいもの。しかし時間指定されているのにいつ行っても不在となると、細かく組み込まれた配送計画にもズレが生じ、結果長時間の残業へも繋がってしまいます。
最新・大型のマンションは宅配ボックスが完備されていることも多いし、一度にまとめて届けることができるから時間がかからないのでは、と思う人もいるかもしれません。しかし、エレベーターの数は戸数の割に少なかったり、さらには通勤時や帰宅時間と重なるとなかなかエレベーターがこず、往復だけでも時間のロスになることも少なくありません。高精度のセキュリティが装備されたマンションでは、オートロックがすぐに引っかかってしまい、結果として配送効率の低下につながることも…。
物流のラストワンマイル問題は、ドライバーの人手不足や荷物の多さだけではなく、このような様々な要因が重なっていることで起きているのです。
再配達の実態
大きな課題の一つとして「再配達」があげられます。
国土交通省が2014年の12月に実施したサンプル調査では、サンプル個数414万個のうち、配達を完了するまでに要した再配達回数が「再配達1回目」が15.7%、「再配達2回目」が2.6%、「3回目以上」が0.9%と、全体のおよそ2割程度が再配達となりました。
1回目の配達で受け取れなかった理由について、「配達が来ることを知らなかった」が42%と最も多く、次いで「配達が来ることを知っていたが、用事ができて留守にしていた」が26%、「もともと不在になる予定だったため、再配達してもらう予定だった」が14%と、後日に再配達してもらうことを前提としていた理由が上がりました。そのほかの主な意見として、「時間指定をすると追加料金がかかるためしなかった(そのためいつくるかわからず不在になる)」「定期便などで2回目以降の日時指定ができない」などが上がっています。
どのような方法であれば1回で確実に受け取ることができたかという質問に対しては、自宅や勤務先近辺のコンビニのレジの活用を希望する人が多く、配達前に電話やメールなどで事前通知が欲しいという意見もありました。指定したコンビニエンスストアでの荷物受け取るサービスも広がってきましたが、全ての荷物に対応しているわけではないため、この他にも確実に荷物を受け取るための工夫や手段が必要になってきます。
参考:宅配の再配達の削減に向けた受取方法の多様化の促進などに関する検討会 報告書
宅配業者と利用者との協力で配送効率は変えられる
先ほど述べた問題をもとに、現時点では以下のような解決策が進められています。
(1) 確実な受取り方法の指定で再配達を極力減らす
先ほどの調査結果でも意見として上がっていましたが、事前に配達指定時間内の受け取りが困難であることがわかっている場合、利用者が最寄りの営業所やコンビニエンスストアで受け取るなどの指示を出す以外に新たな受け取り口が整備されれば、時間あたり配送量がかなり効率化されていくことでしょう。
再配達を減らすための取組みとしてパナソニックが行った「宅配ボックス実証実験」の最終結果報告では、宅配ボックスの設置により再配達率が49%から8%に改善され、宅配業者の労働時間も約223時間(累計4ヵ月)削減するという結果が発表されました。共働き世帯の増加など、人々のライフスタイルも多様化によって不在率も高まってきました。
国土交通省からも受取り方法の多様化を促進する施策として、宅配ボックスを設置する物流事業者やロッカー設置者、ロッカー管理者に対して設備導入経費の半額を補助することで、受け取り側が希望の時間と場所で荷物を受け取る環境を作ろうとしています。
Packcity Japan株式会社のオープン型宅配ボックス「PUDO ステーション」は首都圏の駅構内を中心に約100ケ所に設置されており、2022年度中に5,000台の設置を目指しています。このほか、はこぽす、楽天BOXなど24時間対応の宅配ロッカーが駅やスーパーなどに設置されてきました。
東京港区にある虎ノ門ヒルズでは、2014年6月からヤマト運輸による佐川急便、日本郵便との一括配送を行なっています。高層ビルの場合、複数の物流事業者による配達は各社のドライバーが必要となり、荷降ろし場の車両混雑による待機時間など効率がわるいもの。1社が他社の宅配物を集めることで、人手不足の緩和や受取り側の負担軽減につながるなどメリットは大きくなります。
(2)一方通行だけではない配達側と受取側のコミュニケーション
ドライバーが確実に荷物を届けるためには、受取側の意識も少し変えていかなくてはなりません。荷物がいつ届くのか、いつ届けるのか。お互いの認識を合わせることでスムーズな受け渡しができるようになるのです。
荷物を受け取る側としては運送会社が提供している各種ウェブサービスをうまく活用することで再配達を防ぐことができます。ヤマト運輸では在宅時間をあらかじめ指定できる「MYカレンダー」を筆頭に、荷物が届く直前になってから、荷物の受け取り日時や場所を途中変更できる「お届け予定eメール」などがあり、日本郵便や佐川急便も同様のサービスを提供しています。
スマホユーザーであればLINEアプリを活用し、ヤマト運輸や日本郵便公式アカウントを登録すれば、AIによる会話形式で気軽に配達予定や通知のやりとりができます。ドライバーにとっても電話などの問い合わせを減らすことができ、業務中の手を止めることがありません。
このようなツールの利用で配達側と受取側がお互いの状況を理解し、コミュニケーションをしっかりとることができればすれ違いが起きませんし、ラストワンマイルを埋めていくことができるのではないでしょうか。
(3) トラックドライバーの働き方を見直し、若手や新人の定着率をあげる
体力だけではなく、総合的に効率よく配達できる手段を考えながら早朝から深夜まで働いているドライバー。人材不足は深刻な状態で、若手や新人を採用したとしても過酷な業務に加え経験値が求められるため、定着率が低くなっているようです。荷積みから配達を完了するまでに行う端末の操作も複雑で、初めて利用する場合は大量の荷物に加え、再配達の荷物の連絡が重なり、肉体的・精神的にお手上げになることも…。
デジタコなどを利用して労働時間や休憩時間を見直し、適正な労務管理を行っていくべきかもしれません。
今後はヒトからロボットへ?
すぐには解消できない人手不足に対し、配送ロボットやドローンによって生産性の高い配送やそれを実現するためのサービスの実用化が進んでいます。
2014年から物流現場の人手不足解消に向けた物流支援ロボット「キャリロ」の開発に着手し、2016年から出荷を開始したロボット開発ベンチャーのZMP。2017年7月に公開した歩道を走る宅配ロボット「キャリロデリバリー」は、宅配やフードデリバリー業界の配達員不足解消に加え、買い物への支援を目的にしたもの。宅配すし「銀のさら」を提供すると組んで8月以降に実証実験を始めるとしています。実用化には法整備が課題となるため、今後政府と協議するとのこと。
カメラやレーダーを使い、周囲の環境を認識しながら玄関先まで運ぶというこのロボットは、最大100キログラムまでの重い荷物を積むことが可能。ドローン(小型無人機)で運ぶのが難しい食品配送などを想定しており、実証実験はオフィスなどの私有地で実施する予定です。しかし、トラクターなどの小型特殊自動車に分類された場合、期間限定でしか歩道を走行することができないため、宅配ロボットの実用化にはさらなる法整備が急務となっています。国土交通省の再配達発生による社会的損失の試算によれば、ラストワンマイル問題がどれだけ大きな影響を与えているかが想像できます。・宅配便配達の走行距離の内、25%が再配達のために費やされていると考えられる。
・再配達によるCO2排出量への影響は、スギの木約1億7,400万本の年間CO2吸収量に相当する。
・再配達によって毎年約1.8億時間が費やされているが、これは年間9万人の労働力に相当する。配達ロボットは事業者やドライバーの負担を減らし、なおかつ利用者にも負担はかかりません。安全面や法の整備などクリアすべき課題は多くありますが、今後ラストワンマイルを解決するためにはこうしたロボットの手助けも大きな助力になっていくでしょう。