カーナビやスマホにも搭載!GPSの仕組み
Googleが「Google Map」を開始したのが約10年前の2005年。世界有数の検索サイトがネット上で地図を提供したことで、私たちは紙の地図に頼ることなく目的地を探し出すことが可能となりました。
2年後の2007年には、Apple社から「iPhone」が登場。この革新的な商品の発売と技術の進化により、自分が歩いている場所の位置、地名、そして付近の施設をGoogle Mapなどのサービスを通して調べることができるようになりました。
今では多くの人が当たり前のように使っているその地図検索サービスを支える技術の1つとしてGPSがあります。GPSはカーナビなどの商品に使用されていることでもおなじみですが、実際の仕組みを知っている方は少ないのではないでしょうか。
今回はカーナビやスマホなどで活躍する技術である、GPSの機能について紹介していきます。
そもそもGPSとは
GPSとは、グローバル・ポジショニング・システム(英語:Global Positioning System)の略称です。アメリカ合衆国が打ち上げた衛星を使って、現在位置を把握するシステムのことを指しています。
GPS技術の歴史は古く、本格的に運用され始めたのは1978年から。こうした位置測位システムのアイディア自体は1957年にロシア(旧ソビエト連邦)で生まれており、1964年にはNAVSAT(英語:Navy Navigation Satellite System)という略称で呼ばれていました。文字通り、衛星を使ってナビゲーションするシステムのことなので、GPSの前身ともいえる測位法となります。
では、その衛星を使って位置を把握するとは、一体どんなシステムなのでしょうか?
世の中ではGPSの仕組みが誤解されているケースが多く、自分の位置を衛星から把握されてしまうと思いプライバシーを守る意味でGPS機能をオフにする人たちがいます。実はこれは誤った認識で、衛星内部で受信者の位置を把握している訳ではありません。
位置測位システムの主役となる「衛星」の役割をお話すると、これらはただ地上に向かって電波を飛ばしているだけの存在です。GPSとは、衛星から飛ばされた電波を受信するだけの機能なので、こちらからデータを送信したりすることも、通信料が発生するといったこともありません。GPSの機能は驚くほど単純なのです。
衛星から送られる信号には、搭載している原子時計からの時刻のデータ、天体の運行位置(太陽・月・衛星・惑星・恒星および人工天体など)、軌道などの情報が含まれており、これらのデータが電波となって常に地上に送られています。衛星から飛ばされた電波を、持っている端末(カーナビやスマホなど)で受信して、自分の位置を割り出しているのがGPSの基本的なシステムです。
衛星から発せられた電波は、光の速度で私たちの端末に届きます。届くまで要した時間を計測することができれば、衛星と端末との距離を知ることができます。衛星側は現在の位置を常に把握しているため、端末との距離さえ分かれば、私たちが歩いている場所を導き出すことができるのです。
しかし、1つの衛星からの電波受信で位置を把握することは不可能なため、三角測量の観点から最低でも4つ以上の衛星が必要となります。日本では高度2万kmを漂う衛星が6~10個程度存在するため、これらを使用して位置の精度を高めているのです。
この「精度」という観点ですが、実はGPSの機能だけに頼ると思わぬ誤差を生むことも。通過する不安定な大気の影響を受けることで、衛星から発せられる電波にちょっとした誤差が生じて、現在地の測定にズレを生じる可能性があります。また、高層ビルなどで衛星の信号が反射する「マルチパス」という通信障害もあり、特に密集した都会などはGPSにとって苦手な領域なんです。
そこで、この問題をカバーするために活用しているのが携帯電話の基地局。衛星の軌道情報を携帯電話キャリアが一括して受信し、この情報を基地局を通じて私たちの端末へ飛ばしています。衛星から電波がうまく受信できない時、おおよその位置を基地局を使って測位することで、端末の電源を入れた瞬間から現在の位置を把握することが可能となるのです。
先にも述べた、「自分の位置が他人に把握される」というプライバシーについてのお話ですが、これは衛星からの受信が影響しているというよりも、近くの基地局とオンラインで繋がれば自然と情報が伝わってしまいます。プライバシーを守りたいというなら、常にオフラインで行動することをオススメします。
GPSが爆発的に普及した背景
GPSが爆発的に普及した一番の要因は、携帯端末であるカーナビやスマホなどの技術の進歩によるものが大きいです。ほんの20年ほど前の時代では、クルマの運転中に現在の位置を把握する方法は紙の地図だけ。当然、紙の地図を持ちながら運転することはできないため、ナビを行う人はもっぱら助手席に座った人が中心でした。
1990年代に入るとGPSの技術が加速度的に進化し、クルマにカーナビが搭載する光景が日常のものとなりました。そして、2000年代にはiPhoneが発売し、カーナビだけでなくスマホからも地図が活用できるようになったのです。
GPSの活躍の場は地図のアプリケーションだけではありません。災害時における安否の確認や、海難・山岳事故などにおける遭難者の捜索など、こうした緊急を要する状況でも積極的に活用されています。
そして、今後は事件性のあるケースでも使用されるかもしれません。特に、お子さんの誘拐や行方不明者の探索などにも役に立ちますし、また、海外旅行などで重大な事件に巻き込まれたとしても、位置を把握しておくことで助かる可能性があります。
位置情報はプライバシー性が高い項目となりますが、先にも述べた地震などの自然災害や海難・山岳事故などで遭難した場合は大きな効果を発揮するので、例えばアウトドアレジャーで山や海、川などに行く際などはGPSの機能をオンにしておくことが望ましいかもしれません。
GPSによる自動車の追尾機能
従来のGPSの活用法として主流なのはカーナビなどの地図データによるナビゲーションですが、一部の企業では違った目的で搭載していることがあります。営業車にGPSを取り付けることで、社員の行動を把握するという活用法です。
監視されているような気分になるかもしれませんが、もし社員がまったく違うルートで営業を行っていたら、会社の利益損失に繋がってしまいます。クラウドシステムによるテクノロジーの発達により、ネット上では運行状況が常に更新されているため、GPSのシステムを外さない限り誤魔化すことはできません。
一方で、盗難の被害にあった場合などもGPSの追尾機能は役に立ちそうですが、実際にはあまり効果がないのが現状です。クルマを狙った窃盗団は、かなりの確率でGPSや携帯電話などの電波を切ってしまう「ジャミング装置」を所持しています。イモビライザーなどを搭載したクルマなら盗難を防げる可能性がありますが、持ち去られた後では遅いと考えるのが業界での常識となっています。
盗難の被害に遭っているクルマで上位を占めているのは、トヨタのプリウスやハイエース、ランドクルーザーなどがあります。これは、トヨタ系列のクルマが海外でも人気車種なので、被害に遭いやすいためです。もし、自分の愛車がトヨタ系列であれば、盗難を防ぐための対策が必要であることを意識した方が良いかもしれません。
位置情報の精度を上げるためのポイント
GPSの精度を上げるための基本は、「GPS機能をオンにする」、「Wi-Fiの位置情報を活用する」、「モバイルネットワークの位置情報を活用する」の3つです。この3つの受信が良好な状態であれば、およそ10m程度の誤差で測定することが可能となります。
GPSの機能だけオンにするだけの場合でも、ある程度の位置を把握することができますが、誤差は100mほどに範囲が広がるかもしれません。
一方で、雨の日など大気が不安定な時は精度が下がる可能性があります。また、トンネルや地下鉄などでは電波が遮られてしまうため、正確な位置を把握したい場合は空の下で行動することが基本となります。他にも、高層ビルなどの干渉物が多い場所から離れることも意識してください。
近年では、日本でもGPSの精度を上げるため、積極的に衛星を開発しています。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が、2010年に準天頂衛星初号機である「みちびき」を、H-IIAロケット18号機に搭載して打ち上げました。
日本のほぼ真上を周回する衛星のため、アメリカが打ち上げた衛星との組み合わせにより、より精度の高い位置を把握することが可能に。今後は三角測量の要領を満たすため、3基以上の衛星が打ち上げられる予定です。
GPSって買うといくらくらい?簡単につけたりできる?
GPS機器メーカーとして有名なのが、アメリカのガーミン社です(英語:Garmin Ltd)。高機能を持つハンディGPSとして登山者などに愛用され、日本の衛星である「みちびき」や、ロシアの衛星である「GLONASS」にも対応しています。値段も1万円~3万円前後で購入が可能で、防水性と耐久性に優れているため、クルマだけでなく自転車、オートバイにも気軽に搭載することができます。
また、近年では腕時計にもGPSを搭載しているものが発売しています。ガーミン社も専用の腕時計を販売しており、また、日本のメーカーであるカシオでもGPS衛星電波を受信する腕時計を開発しています。衛星からの電波は時刻情報も含んでいるため、位置情報と組み合わせてタイムゾーンを自動判断することが可能だそうです。
これからのGPS
今後もGPSによる位置測位システムは、クルマの業界において目が離せない技術の1つとなるはずです。人工知能を搭載した自動運転技術などが発展すれば、位置情報を把握することはとても重要な項目となります。地上から宇宙の領域まで活躍するテクノロジーとして、その技術力の成長が熱望されています。
*参考
『灯台を宇宙に打ち上げた男たち/GPSが誕生するまで』 牧野武文著
「位置情報活用の現在地」(http://www.hummingheads.co.jp/reports/feature/1308/130826_02.html)