運送における「ラストワンマイル」。多様化する背景と物流の課題
物流最大手のヤマト運輸と、急成長を遂げているインターネットサービス会社「ディー・エヌ・エー」は、2016年7月20日に「ロボネコヤマト」という、次世代物流サービスの開発に向けた実用実験に取り組むことを発表しました。
「ロボネコヤマト」とは、自動運転技術を宅配便の配達に活用するためのプロジェクトの名称で、2017年3月から1年間に渡り、国家戦略特区のいずれかの地域で「オンデマンド配送サービス」と「買い物代行サービス」の実用実験を行うことを予定しています。
これは「運送のラストワンマイル」に関わるトピックのほんの一例であり、各運送会社は独自の新しい配達サービスを次々と発表・導入しているのです。
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目次
「再配達」の多発は社会的な損失になる?
インターネットでお買い物のあとは商品が届くまで楽しみに待つだけ。運送における「ラストワンマイル」とは、商品が最寄りの配送センターから顧客への配達地点まで移動する道のりのこと、つまり荷物受け渡しまでの最後の区間を指します。
最初の配達で荷物の受け渡しができればいいのですが、受取人不在などでタイミングが悪いと再配達をしなくてはいけなくなり、それまでせっかく効率的に配達してきたのに最後の最後で非効率が生じてしまうということが起こっているようです。
その「ラストワンマイル」問題の解決に関するサービスが多様化してきている理由としては、ただ単に物流・通販業界の競争が激しくなっているからということだけはなく、宅配便の取り扱い個数の増加と比例する形で、受取人の不在などによって再配達が必要となるケースが増加傾向にあるという問題が大きく関係しているようです。
再配達が多くなると社会的にどのような弊害があるでしょうか…?
国土交通省が2015年8月に提供した『宅配の再配達の発生による社会的損失の試算について』には、以下のようなデータが発表されています。
再配達率は全体の約2割
大手運送会社3社を対象に、宅配の「全訪問回数」に対する「不在訪問回数」を割り出したところ、不在訪問率は「19.1%」と全体の約2割を占めていました。
不在配達のための走行距離は全体の25%
東京都と福岡県にある佐川急便の事業所で使用している集配車両にGPSを設置して走行距離を計算したところ、宅配便配達の走行距離のうちの25%は再配達のために費やされたものだったそう。
再配達による年間CO2排出量は約42万トン
再配達による距離の伸長率からCO2排出の増加量を算出したところ、約42万トンのCO2が発生することが判明しました。
これは約1億7400万本のスギの木が1年間で吸収できるCO2量に相当します。
再配達にかかる労働力は年間9万人分
配達員の1日の労働時間を8時間、年間労働日数を250日とした場合、1年間の不在配達にかかる労働力は年間9万人(約1.8億時間)に相当します。
こういった試算から国土交通省は「再配達の過剰発生は社会的損失である」と考え、宅配事業者、通販会社などと共に再配達の削減に向けて対策の検討を進めています。
運送会社が提供するラストワンマイルサービスの例
では各運送会社や通販会社は利便性向上のため、そして荷物の再配達を少なくするためにどのようなサービスを提供しているのでしょうか。運送業界で話題を集めているラストワンマイルサービスをご紹介しましょう。
コンビニ配送
こちらはすでに利用したことがある方もいるのではないでしょうか。商品の配送先を近所のコンビニに指定することで、注文者の都合の良い時間、都合の良い場所で荷物を受け取れるラストワンマイルサービスです。
24時間営業の店舗を受取先にすれば、夜中や早朝であっても荷物を受け取ることができます。
はこぽす
2015年4月に日本郵便と楽天が連携して開始したサービスで、ゆうパックで発送された荷物を郵便局などに設置された専用のロッカーで受け取ることができます。
はじめは都内の24の郵便局のみで試験的に実施されていましたが、好評を博したのか試行の継続が決定し、楽天以外のインターネット通販でも利用できるようになりました。
Qual(クオール)
メール便の受取人が不在でポストの中にも入らないと、わざわざ持ち帰って再配達をしなければなりませんでした。
「Quall」はそんなメール便の再配達を少なくするためにAmazonがメーカーと共同で開発した大型郵便ポストのことで、戸建用と集合住宅用がそれぞれ個人向けに販売されています。
スマート宅配ボックス
株式会社エスキュービズム・テクノロジーが開発した、スマートフォンを鍵にして開閉できる新しい宅配ボックスです。
まだそれほど普及は進んでいないようですが、2016年4月には羽田空港で導入が開始されています。
ヤマダ高速便
ヤマダ電機が提供しているラストワンマイルサービスは、なんとヤマダ電機のスタッフが直接お宅まで商品を届けてくれるそうです。
当日配送を前提としていて運送会社を通さなくて済む分、配送にかかるコストは削減できますね。
ドローン宅配便
ニュースでも度々話題になっている小型無人飛行機を使った宅配サービスの実験が、現在日本でも進んでいます。
政府は2018年までの実現を目指していますが、安全性の問題や荷物の落下問題など、実用化するまでにはまだまだ多くの課題がありそうです。
今後の「ラストワンマイルサービス」
今後も配送各社は、彼ら側の効率化のニーズのためだけでなく、荷物を受け取るコンシューマー側のニーズにも応えるためにも、そして社会的な見地では再配達による無駄な走行(ガソリン代、排気ガス、人的コスト、渋滞発生等)を削減するためにも、今後も様々な「ラストワンマイル」の取り組みが行われていくと思われます。その中で、ドライバーに過酷な労働条件やノルマが強いられたりするわけではないというところも担保されるかどうかというのも、注目すべきところですね。