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リスクマネジメント・クライシスマネジメント・BCPとは

物流・運送業者にとっての生命線は、「人やモノを安全かつ確実に運ぶこと」ですが、交通事故や自然災害といった障害が発生すると、事業に支障をきたすばかりか最悪の場合、事業継続そのものが困難になることもあります。企業が被るダメージを最小限に食い止めるため、「リスクマネジメント・クライシスマネジメント・BCP」が不可欠ですが、事業主や管理者の中には、それぞれを混同して捉えているケースも少なくないようです。

リスクマネジメント・クライシスマネジメント・BCPとは

リスクマネジメントとは

物流・運送事業を進める上で起こりえる障害のうち、ヒューマンエラーによる交通事故や受・発注ミス、システムエラーによる情報漏洩や機械・設備の機能不全など、サプライチェーンに混乱をきたす悪い事象をリスクと呼びます。リスクはよく「危険」と解釈されていますが、本来は「悪い事象が起こる可能性」という意味を持っており、物流・運送業に限らずあらゆるビジネスにおいて、「リスク0」で利益を上げることは不可能です。

そして、リスクマネジメントとは悪い事象が発生する可能性を、次のような事前策を講ずることで低下させ、かつ発生時のダメージを最小限に食い止める機能を、組織に持たせるマネジメント活動のことを指します。

  • ヒューマンエラー・・・社員教育、労働環境改善、人員補充、ドライブレコーダー・衝突被害軽減ブレーキ導入など。
  • システムエラー・・・日常的メンテナンス、IT活用、一部業務のアウトソーシングなど。

物流・運送業におけるリスクマネジメントのポイントは3つ。1つはデータ収集・分析による「リスク発生領域の把握」です。エラーが頻発する部署は教育徹底・人員補充・システムの見直しが必要ですし、改善されない場合は縮小や撤退も考慮すべきだと言えるでしょう。2つ目は「リスク軽減」であり、商品管理・運送ダイヤなど重要データのバックアップや、停電によるシステムダウンから速やかに普及できる予備電源確保などがそれにあたり、ハッキングによる情報漏洩を防ぐ対策ソフト・ソリューションの導入も必要となります。

3つ目が「リスク分散」です。どれほど事前策を講じてもリスクは必ず発生しますから、万が一に備えて自動車保険を拡充しつつ、事業継続に欠かせない部署かつ縮小・撤退が困難なら、企業戦略として3PLの導入を視野に入れるのも良いでしょう。

クライシスマネジメントとは

クライシスマネジメントとは、頻発する大規模自然災害や、国際情勢の緊迫化によるテロ・紛争など、企業の存亡を左右しかねない「危機的状況(=クライシス)」に直面した際、組織としてどのような行動・対応で乗り切るのかを決定・管理することを言います。

リスクと異なり、「クライシス」を予期することは不可能に近いもの。発生率は低いものの企業が被るダメージは甚大であるため、いつか必ず起きることを前提に「事後策」を練っておくべきでしょう。とくに物流・運送事業は、水道・電気と並び国民生活を支える「ライフライン」であるほか、海外に拠点を持つ企業の場合はテロ・紛争の脅威にさらされる可能性も考えられるため、より綿密なクライシスマネジメントプラン(CMP)を立てておく必要があります。

具体的には「人命尊重」を最優先したうえで、

  • 危機発生時の人事体制
  • 意思決定プロセスの確立
  • 緊急連絡手段及び避難方法・場所の確保
  • 普及作業の役割分担
  • 優先すべき業務順位の決定

などCMP発動から事態終息までのタスクを盛り込み、一刻も早くサプライチェーンの復旧を目指すのが社会的使命とも言えるもの。また、国際的コンサル企業である「デロイトトーマツ」は、CMPについて

Readiness(準備)・・・組織横断的な体制やガイドラインの整備はもちろん、有事に機動性を発揮できるようシミュレーション型訓練を実施するステージ。

Response(対処)・・・設備破壊だけではなく、レピュテーションの毀損も含め、クライシスによる損害を最小限にとどめるため、社内外のリソースをフル活用しトップダウン方式で諸活動を進めるステージ。

Recovery(回復)・・・事態沈静化後の事業・信頼回復、及びクライシスの真因追究と再発防止策を懸案し、場合によっては組織再編なども見据えながら、平時の状態にできるだけ早く復旧させるステージ。

の「3ステージ」に分けて考えるべきだと提唱していますが、いつ起きるかわからないクライシスを、マネジメント対象にしている国内企業はさほど多くないのが現状です。同社が日本の上場企業を対象として実施した調査によれば、全社的なCMPを策定しているのは46%程度にすぎず、半数以上が検討中もしくは策定していない状況だと言います。中でも、日常業務に追われている中小企業の場合、おそらく策定率はもっと低い水準だと考えられます。

CMPを軽視し、人的被害・二次災害を引き起こした企業の評判は地に落ちますが、迅速な初動と対応によって被害を最小限に食い止め、可能な範囲で一部業務を継続・社会貢献した物流・運送業者の中には、その後急成長を遂げたケースも多々あります。つまり、クライシス発生時こそ企業の真価が問われる訳ですが、ないがしろにしているとは言わないまでも、CMPの策定まで手が回っていない物流・運送業者が、まだ多いのも事実です。

しかし、物流・運送業において起こりえるリスク・クライシスは

  1. 経済環境の変化(人件費・車両購入費・設備維持費・燃料代の高騰)
  2. 大規模災害の発生(地震・台風・豪雨・疫病)
  3. 紛争・テロへの遭遇(海外拠点だけではなく情勢によっては国内での発生もありうる)
  4. 法律・規制の改正(道路交通法改正・規制緩和・交通違反罰則強化)
  5. 不正・犯罪への遭遇(金融犯罪・財務報告の虚偽記載・贈収賄)
  6. 製品・サービス品質低下(サプライチェーンの寸断・取引相手との関係悪化)
  7. レピュテーションの毀損(風評被害による売上高激減)
  8. システムダウン(サイバー攻撃・ウイルス感染・情報漏えい)
  9. 人材・労務関連(人材不足&流出・労務環境悪化・働き方改革への対応)
  10. ガバナンス不全(ワンマン経営による内部統制不全)

など多岐にわたり、企業規模が大きくなるほど対策すべき範囲が広がるため、まだCPM策定に着手していない場合は一刻も早く取り組みを始めるべきかもしれません。

BCP(事業継続計画)とは

BCPとは、事業継続計画を意味する「Business Continuity Plan」の頭文字を取った略語であり、仮にクライシスが発生しても重要な事業を中断させない、あるいは中断しても可能な限り短時間で復旧させるための、方針・体制・手順を示した計画のことです。

大規模な自然災害やテロなどが発生した場合、車両やドライバー・作業員の不足、交通インフラ(道路・信号)の混乱、オフィス・倉庫・機材などの破壊と損傷といった経営資源が被災によって活動能力を失うため、全ての業務を平常レベルで維持することが困難になります。そのような事態に備え、数多くある業務の経営に与える影響を分析、限られる経営資源をどの業務に割り振り継続させるのかを決め、被災規模に沿った具体的な人員・車両配置計画や、継続・復旧に要する時間やコスト算出し「マニュアル化」する施策がBCPです。

BCP策定のポイント1 「防犯体制の現状把握」

計画通り機能するBCPを策定するには、災害発生時どの程度の活動能力が確保できるのか、現状の防災体制をデータ化・分析することで把握し、事業継続・復旧するため不足している課題を、事前にあぶりだしておく必要があります。

たとえば震度6強の大型地震が発生、施設・車両破壊や従業員が出勤不能に陥った影響で、A社の防災体制では平常時の「5割」しか、活動能力をキープできないと仮定しましょう。

この時、A社が経営破たんしないため継続すべき業務規模が5割以上だったとすると、現体制を改善しないままマニュアルを作成しても無意味です。速やかに各施設も耐震強化や非常用車両・人員確保など、最低限の活動能力を維持する施策を実行する必要があります。

BCP策定のポイント2 「企業パワーに即した目標の設定」

災害発生後、多くの業務を継続・早期復旧することが望ましいものの、策定したBCPに無理があるとかえって現場が混乱し、事業縮小や廃業を余儀なくされる可能性もあります。それを防ぐためには、優先してすべき中核業務を絞り込み、適切な継続範囲及び復旧時間の目標を設定したうえで、緊急時に提供できるサービス水準について、顧客と事前に協議することが必要です。

出典;中小企業庁「企業の事業復旧に対するBCP導入効果のイメージ」

また、一般的に業務マニュアルはペーパーレス化した方が管理・浸透しやすいものの、停電などの事態に備えBPCに関しては電子化だけではなく、全社員がいつでも閲覧可能な「実文書マニュアル」も準備しておきましょう。

それぞれの相違点と必要な理由

まず、リスクマネジメントとクライシスマネジメントの違いとして、前者が「事前策」・後者が「事後策」である点を指摘できますが、リスクマネジメントは事前策・事後策を兼ねるべきという考えから、後者は前者の一部に過ぎない意見もあります。

しかし、東日本大震災の発生以降、調査・研究に基づく事前策を講じても、個人・組織へ甚大な被害をもたらすクライシスは、「身近に迫っている危機」という考えが根付き、予見・回避可能なリスクより厳重に管理すべきという風潮も広がっています。地震大国である日本においては、悪い事象が起こる可能性をリスクマネジメント(事前策)で極力摘み取ったうえで、避けることのできない危機による被害を最小限に食い止めるクライシスマネジメント(事後策)を同時に徹底する必要があるのです。

また、CMP・BCPともにクライシス発生時における対応策という点は同じですが対応範囲が異なり、前者が事態発生から終息までを網羅した計画なのに対し、後者は事業継続に関わる部分に特化した行動計画であり、CPMの一部として組み込むべきものです。

つまり、BCPはCPMありきで初めて機能する行動計画であり、同時にBCPを組み込んでいないCPMは、クライシスの嵐が過ぎ去るまで何もせず待つだけの、単なる「避難計画」に過ぎません。企業・組織を「帆船」に例えるなら、リスクマネジメントによって「耐波性」を高め、CPMの発動で素早く帆を畳み「転覆」を防ぎつつ、BCP計画に沿って的確に「舵を切る」ことで、クライシスという「大嵐」を乗り切ることができるのです。

まとめ

行政・医療機関や大企業を中心に、近年浸透しつつあるリスク・クライシスマネジメントですが、中小企業の多い物流・運送業界では人材資源(スキル・人数)の不足が主な要因となり、危機管理体制構築・整備が不十分であるケースも多いようです。

完璧な危機管理なんてこの世に存在しませんが、従業員の防災意識を高めるだけでも危機回避効果はありますから、今回の記事を参考にリスク・クライシスから会社を守る、危機管理体制構築・強化を一歩ずつ進めていきましょう。

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