テレマティクスとは?可能性とデメリットについても解説
コロナ禍が終息を見せない中、多方面で新たな生活様式を強いられるようになりました。移動も例にもれず、安全かつスムーズ、付加価値のあるサービスへの進化を求められています。
そうしたモビリティの進化を実現できるテクノロジーとして、近年注目されているのがテレマティクスですが、そもそもどんな技術であり、自動車を始めとするモビリティ業界にどんな新風を吹き込むのでしょうか。
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目次
テレマティクスとは
テレマティクスとは、「電気通信(テレコミュニケーション)」と「情報処理(インフォマティックス)」を組み合わせた造語です。直訳すると、電気通信で情報を処理することになりますが、「テレ」には「遠隔の…」という意味があるため、「離れた場所で」というニュアンスが加わります。
テレマティクスの歴史~情報の質とスピード~
私たちがはじめに“テレマティクスらしきもの”に触れたのは、おそらく電話回線を利用したFAXでしょう。何らかの情報を受話器からの音声だけでなく、文字・図表・画像で受け取れるようになったことは、当時としては非常に画期的で、FAXの普及により、一気に情報処理・理解力が向上しました。もちろん、その後すぐインターネットや電子メールが登場し、情報の質・量・伝達スピードは格段に進歩を遂げ、現在ではリアルタイムで動画をやり取りできるようになったのです。
テレマティクスの歴史 ~モビリティ業界へ~
テレマティクスとモビリティ業界に接点ができ始めたのは1980年代に入ってから。詳しく述べると、1981年にホンダがジャイロ式カーナビを搭載した2代目アコードを販売してからですが、当初のカーナビはモビリティ自身が車体の方向を把握していました。
その後、トヨタなどが追随してCDやDVDによる「電子地図式カーナビ」を発表しましたが、これも車内で情報のやり取りが完結するだけのシステムでした。厳密にテレマティクスが導入されたのは1991年のこと。パイオニアが世界ではじめて遠く離れた人工衛星からの電波で自動車を誘導するGPS式カーナビを開発し、それ以降、GPSによる位置情報の精度や速度が進歩し現在に至っています。
テレマティクスの歴史 ~一方通行から相互通信へ~
周知の通り、車載GPSが発する位置情報や車速をシステムが解析し、正確無比に目的地へ誘導するGPSカーナビは、瞬く間に普及しました。そして、そこから発信される情報にリアルな道路・渋滞情報などが加味され、音声のみで操作できるカーナビも登場しました。ここまではGPSという優れた情報発信機器を用いた、受動的で一方通行なシステムにすぎません。
モビリティ業界においてテレマティクスは、自動車からも能動的に情報を発信し、ドライバーの利益を生むと注目されているのです。
テレマティクスができること ~溢れる可能性とデメリット
車、もしくは移動そのものが持つ情報を通信・処理し、価値あるサービスとする「自動車テレマティクス」は、まず安心・安全とお金の分野から発生しました。
テレマティクスの可能性1「自動車保険での活用」
モータリゼ―ションが全盛を極めるとともに、日本・米国・独などの自動車先進国では、交通事故も大きな社会問題になっていました。交通事故で発生した物的・人的損害に対する金銭補償額も年々増加の一途を辿ります。すると次第に、「年間10万km走行するドライバーと5千kmしか走行しないドライバーの掛け金が同額とういうのはおかしい」という考えが芽生え、テレマティクス保険が誕生します。
走った分掛け金を支払う「走行距離連動型」は現在の主流となっており、これに通勤orレジャー、市街地or郊外など日頃走行する環境・状況が掛け金へ加味されるようになったのです。とくに日本では、定期的な車検とオドメーターで車両ごとの走行距離を正確に把握・管理できるため、この「走行距離連動型」が主流になりつつあります。これにより、従来の運転者範囲・年齢制限などと合わせ、自動車保険はかなり公平になったと言えるでしょう。
また、過去に事故・違反歴がないなどの実績はもとより、自動車に設置したセンサーなどにより、急ハンドル・急ブレーキを多用しないなど、事故のリスクが低い優良ドライバーの掛け金を安くする運転行動連動型も登場。危険運転につながる運転をしなければ、それに応じて掛け金が安くなるこのテレマティクス保険を「PHYD保険」と呼び、国内では2018年にトヨタ自動車とあいおいニッセイ同和損害保険が共同で開発し、提供がスタートしました。
テレマティクスの可能性2「モビリティの円滑化」
安心・安全、そしてお金まわりに関する効果が期待できるようになると、今度はより利便性が高く、有意義にテレマティクスを活用できる方法はないかという考えが広がってきます。具体的には、交通情報や気候・天気予報だけではなく、車両管理や事故発生時の緊急対応など、高度な道路交通システムの一環として車載GPSやナビを利用しようというものです。つまり、自動車自体を移動する通信モバイルとして扱うことで、効率化を図楼という考えですが、現在、テレマティクスの分野で先行しているトヨタ自動車にしても、移動車をスマホのように、インターネットと接続するというコンセプトはなかなか根付かせることができませんでした。
そして2000年。ここからようやく、ガズーメディアサービス(現・トヨタコネクティッド)よりG-BOOKサービスがスタートしますが、それもエアバック作動時の自動的な通報や一定走行距離経過時の自動点検アナウンスのように、双方間ではなく、一方通行型のサービスに留まります。
真の意味で自動車テレマティクス、つまり、常時情報通信を車と管理センターとでやり取りする「コネクテッドカー」が登場・普及を始めたのはここ数年のこと。しかも、後述するデメリットの関係から、拡大スピードは緩やかです。現時点では、走行データを取得・分析・活用する車両管理システムのような業務利用が主となっており、自動緊急通報システムの搭載が欧米・露で義務化されたとはいえ、国内の自動車テレマティクスの自家用普及ペースは遅い印象を拭えません。
テレマティクスの可能性3「MaaSへの進化」
ここまで紹介してきたテレマティクス保険や車両管理による従業員の動態把握などはすでに実用化されつつありますが、単純な移動を超えて「想像力」を発揮することで、自動車におけるテレマティクスの可能性はもっと大きく膨らみます。
たとえば、Aさんが数人でシェアリングしているコネクテッドカーで通院と買い物をするとしましょう。Aさんが乗車した瞬間、自動車は自動的に体温や血圧などのバイタルをチェックします。そしてチェックしたバイタルの正常性を確認した後、その情報がAさんかかりつけの病院へ転送・共有され、今日の通院予定やカルテをもとに受付が完了、待ち時間なくスムーズに診察・治療・薬が処方されました。次に訪れたスーパーでは自宅や車から手配していた生活必需品の売り場へ誘導され、迷うことなくキャッシュレスで買い物を済ませ、安全かつ最短ルートで家路へ…。
シェアカーの料金から治療費、スーパーでの買い物代までは一括決済が可能で、すべての移動を1つのサービスとして便利に素早く受けることができます。このように、テレマティクス、つまり情報とその処理は、工夫次第で現在進められているMaaSの進化を後押しする、もしくは最も大切なメソッドになる可能性を秘めているのです。
テレマティクスのデメリット1「個人情報の漏洩」
ここまで述べたように、自動車におけるテレマティクスは数々の可能性を持っていますが、一部ではデメリットも。一番の課題となるのは、取り扱う個人情報の漏洩問題です。
保険やフリート活用など、自動車テレマティクスがまだ限定的にしか普及していないのは、移動に関してはもちろん資産や健康に関する情報を多方面で共有することに、ユーザーが危機感を持っているためです。
自動車業界はもちろん、今後自動車テレマティクスの分野に参入を考えている場合は、何よりも先に「個人情報の漏洩防止」を前面に打ち出すべきかもしれません。また、企業によるITを用いた車両管理にありがちですが、車載GPSなどを通じ従業員が常時、管理者に行動を見られている、言い方を変えると「監視つき」というネガティブな印象を拭うことも重要です。監視ではなく、あくまで従業員の安全と安心を向上させるためで、社を上げて「見守っている」ということを伝えましょう。
テレマティクスのデメリット2「導入コストの拡大」
テレマティクスを移動へ組み込むほど、ユーザーの利便性は上がり、MaaSへと近づいていきますが、その分における導入コストが発生するのも事実です。
個人利用については、マイカーをコネクテッドカーにするコストに比べ、経済性や利便性など得られるメリットが少ないと感じられてしまうため、「わざわざ出費をするまでもない」と多くのユーザーが考えているのです。そのため、自家用車にテレマティクス導入を推進するには、もっと目に見える魅力を打ち出し、先ほどの例のように「3時間待ちの3分診療」と揶揄される国内医療の現状を改善するだけでも、十分に自動車テレマティクスの効果を訴えることができるでしょう。
一方、企業においては近年、SDGsへの関心の高まりからHVやEVなど省燃費の方へ目が行きがちです。しかし、最近では後付け可能な低コストで業務や移動を効率化できる車両管理システムが提供されています。社用車をすべてコネクティッドカーへ変換するには膨大なコストがかさみますが、車両管理システムは車載機を装着するだけなので、管理者は業務改善計画の1つとして導入を検討すると良いでしょう。
テレマティクスはモビリティ業界をどう変えていくのか
テレマティクス自体は、スマホやインターネットの普及もあり、もはや特別なものでなくなってきました。しかし、自動車という移動手段との融合は、先述した通り、個人情報の漏洩やコストの問題で普及の拡大にはもう少し時間がかかりそうです。可能性を第一に考えれば、テレマティクスがモビリティ業界を新しい生活様式に進化させるために必要不可欠なキーワードであることは明らかです。そのため、今後進むであろう自動車の情報端末化に備え、個人情報取り扱いにおける法整備やキャッシュレス決済を始めとする生活のIT化に対応すべきだと言えるでしょう。