自動車のIT化「テレマティクス」の歴史を紐解く
突然ですが「テレマティクス」という言葉をご存知ですか?
ニュース番組を見ていてもあまり耳目に触れないであろう言葉ではありますが、自動車産業においてテレマティクスは数年前から注目されており、今後さらに重要なものになっていくと言われている技術・サービスです。
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そもそもテレマティクスとは
テレマティクスとはテレコミュニケーションとインフォマティクスを合わせて作られた造語で、「自動車などの移動体に通信システムを組み合わせて、リアルタイムに情報サービスを提供すること」(IT用語辞典の定義)を指します。
自動車がインターネットに接続するサービス、「自動車のIT化」をイメージしていただくとわかりやすいいかもしれません。
かつて自動車にはナビさえ搭載されていませんでした。エンジンを搭載し、走らせるだけのものだったものがいつしかナビが搭載されるように。ナビにはGPSが搭載されており、位置情報と地図を照らし合わせて交通情報をドライバーに与えてくれるとても便利で
画期的なサービスとして普及しました。テレマティクスは自動車をインターネットに接続するサービスですので、自動車がさらに便利になる可能性を秘めています。
現在、自動車とITと言えば、どうしても自動運転ばかりがニュースで話題になりがちですが、既に少しずつテレマティクスサービスは広がり始めてきています。今回は、今後より日常的なのものになっていくと思われるテレマティクスの歴史を探ってみるとしましょう。
F1から始まったカーテレマティクスの歴史
テレマティクスの歴史はまだまだ長くはありません。そもそもインターネットの歴史がまだまだ浅いもので、「インターネットの技術を自動車に」という発想そのものが比較的新しいものです。
今でこそインターネットはスマートフォンから誰もが当たり前のように楽しめるものになりました。スマートフォンを購入したその瞬間からタップすればインターネットに接続できるなど、もはやインターネットは「あると便利」ではなく、「当たり前のもの」「なければ困るもの」へと進化しています。特別なものではなく、我々の日常生活の中に溶け込んでいるものですが、このような状況となったのは2010年以降、スマートフォンが飛躍的に普及してからです。
いわゆる「Windows」の人気のおかげでパソコンでインターネットを楽しめるようになったとはいえ、パソコンでインターネットを楽しむためにはそれなりのスキルや知識が必要でした。そのため、インターネットは携帯電話が普及するまではまだまだ一部の人たちのものでしたが、その時代よりもさらに前、1983年がテレマティクスの始まりと言われています。
導入したのはホンダでした。「テレメントリーシステム」と呼ばれていたもので、一般車ではなく、F1の世界に導入したのです。マシンがピットインした際、ワイヤレスで情報を送受信。マシンから走行中の情報を無線でピットに送信し、バックヤードのオフィスや研究所とリアルタイムでデータ共有出来たのです。一般車向けのテレマティクスが登場するのはそこからおよそ10年後。1995年に登場したATISです。
Photo credit: taka_suzuki
ATISとVICS
一般車におけるテレマティクスの始まりはATISとVICSとされています。こちらは行政主導で行われたものです。
ATISとは「Advanced Traffic Information Service」の頭文字を取って名付けられたもので1995年に登場。高速道路のサービスエリアやパーキングエリアなどで、渋滞状況が表示されている電光掲示板を見た事がある人は多いかと思いますが、情報をリアルタイムで共有し、どこでどれだけの渋滞が発生しているのかを知らせるサービスです。こちらは近年スマートフォンのアプリとしても登場しているので、手元のスマートフォンからでも利用出来るまでに進化しています。
翌1996年に登場したVICSは、「 Vehicle Information and Communication System」の頭文字を取ったもので、FM多重放送や道路上の発信機から受信した交通情報を図形や文字で表すシステムです。これにより、交通規制や渋滞などの道路情報をカーナビに送ります。
個別のドライバーに送信する事により情報を共有できるもので、現在販売されているカーナビのほとんどに対応。無料なので名前は知らなくとも、知らず知らずのうちにVICSを利用しているドライバーは多いです。
民間企業のテレマティクス
ATIS、VICS共に素晴らしいサービスではあるのですが、行政主導のものでした。民間企業でテレマティクスが採用されたのは1997年です。トヨタ、ホンダ、日産がそれぞれ「MONET」「インターナビ」「コンパスリンク」と開始。それぞれ独自技術ではありますが、インターネット回線網を使い、渋滞情報や道路情報を共有できるというものです。
自動車メーカーが各々独自に研究を進めているため、ATISやVICSのように共通規格にはならず、各々のメーカーによって異なるサービスとなりました。サービスの名称こそ異なりますが、インターネット網を活用したものでした。
自動車業界の勢力争いとテレマティクスの真価
テレマティクスは自動車業界の勢力争いにも見られるようになりました。例えばトヨタは2002年、MONETから進化させて「G-BOOK」を開発。「Willサイファ」にはG-BOOK対応のカーナビだけではなく、KDDIと共同開発した専用のデータ通信モジュールを標準搭載したのがサービスのスタートでしたが、トヨタの提携企業でもあるスバルとマツダでもG-BOOKの運用が開始されました。
テレマティクスは単にサービスを提供するだけではなくデータを送受信するので、利用者が多ければ多い程サーバーに蓄積されるデータが増え、より利便性が高まります。そのため、どの自動車メーカーとしても「自分たちだけ」ではなく、本音を言えば自分たちが作ったサービスをより多くのドライバーに使ってもらいたいと考えているのです。その点ではさすがに「王者」とも言うべきトヨタは手堅いです。
またデータが上書きされるおかげで便利になる例としては、2011年3月に起きた東日本大震災での件が挙げられます。まだまだ記憶に新しいかと思いますが、未曾有の大災害の影響により、地図が意味をなさなくなってしまいました。津波や震災等により、道がどこにあるのかさえ分からない状況に。
ですがこの際、ホンダのインターナビにより、被災地域を走った車のデータからどの道は通行可能なのかを割り出す事ができただけではなく、車が通っていない場所はおそらく通行できないのだろうとの情報までサーバーに蓄積され、ホンダのインターナビを搭載しているドライバーたちは、東日本の被災地でもどの道路が通れるのかを判断できたのです。
今後のテレマティクス
今後のテレマティクスへの期待値が高いのは、IT技術が飛躍的に進化しているからです。例えば自動車メーカーがテレマティクスを導入した1997年は、携帯電話の通信速度が14.4kだった時代です。2016年8月現在、スマートフォンでさえ100Mpsが出る時代です。接続速度はもちろんですが、無線環境もかつてとは比べものにならない程進化しています。
実際IT化が進んでいるのは何も自動車だけに限った話ではありません。ここ1、2年で日本でも「IoT」(Internet of Thingsの略で、様々なものがインターネットとつながること)というキーワードが新聞やテレビ、書籍などで頻繁にとりあげられるようになりましたが、身の回りの様々なモノがインターネットに繋がり、より便利になってきている時代です。
そんな昨今ですから、自動車のIT化も急速に進んでもまったく不思議ではありません。今後も更にテレマティクスは進化し、自動運転しかりドライバーにとって便利な機能やサービスが提供されていくでしょう。