自動販売機業界・メーカーの課題と解決策【前編】
少し歩けば簡単にドリンクを購入できる、便利な自動販売機。都心でも郊外でもすぐに見つけることができますが、これほど普及しているのは世界広しと言えど、日本ぐらいです。
しかし、あまりにも設置台数が膨大なため、商品・釣銭の補充や売り上げの回収を担うオペレーターの労働環境は昨今の働き方改革に反して悪化しており、さらには人件費や車両・倉庫の運用・管理コスト増大による収益率の低下に業界各社は頭を悩ませているようです。
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見渡せばすぐそこにある。自販機大国ニッポン
一般社団法人「日本自動販売システム機械工業会(JVMA)」が公表している、2018年12月末現在のデータによると、缶・ペットボトルの清涼飲料水、及びパック・カップタイプ自販機の国内設置台数は約240万台とのこと。一方、海外での普及台数は米国が290万台超、欧州全体で約300万台と単純な設置数では及ばないものの、人口1人当たりの普及率で言えば日本は世界一の自販機大国であり、年間の売上高も2兆円を超える大きな市場になっています。
日本で自販機が広く普及したのにはいくつか理由があります。最初のきっかけは、1964年の東京オリンピック開催時に国鉄が券売機を導入し、100円硬貨が大量に流通したことでした。次いで、70年代中盤から世界に先駆け「クール&ホット自販機」が登場し空前の大ヒット。海外と比較して治安が良い日本では、商品や金銭を強奪されたり、自販機そのものを破壊されたりする心配が少ないことも普及に拍車をかけ、技術の先進性においても世界トップクラスの水準を誇ります。
しかし、海外からの観光客が「来日して驚いたこと」で良く挙げているように、商業施設だけでなく全国津々浦々、屋内外問わずあらゆる場所に設置されているため、日本における自販機市場は飽和状態と言えるでしょう。
そこで、国内の各メーカーは海外に販路を求め、たとえば「ダイドードリンコ」は2013年からロシアに進出し、現在500台以上の自販機を運用していますが、2018年3月同社が発表した決算報告によれば、純利益25億円(前期比23%減)と苦戦を強いられているようです。同社が思っていたような数字を残せないのは、極寒の地であるロシアでは自販機を路上に設置しづらく、屋内の設置がメインになるため想定通りの売り上げを見込めないほか、年中ドリンクを温める必要があるため、電気代・維持費がかさんだためです。
さらに、治安の問題から欧米各国への進出も困難と言われており、実用性や利便性よりもコカ・コーラやペプシなどの広告塔としての役割が強いため、最低限の品数しか販売していない米国自販機市場において、数十品目を揃える日本の自販機は無用の長物。ヨーロッパ市場ではそれに加え、歴史的建造物や景勝地が多く景観を損なう場所への自販機設置が認められないこともあるほか、缶やペットボトルのポイ捨てに対する規制・罰則も厳しいため、米国以上に設置企業・事業主を確保できないのです。
その結果、自販機業界・メーカーは熾烈を極める国内市場において、オペレーション・コストを削減し収益率の維持に尽力していますが、新規自販機の設置と売上高が頭打ちである今、さらにいくつかの課題が浮き彫りになっているようです。
自販機業界・メーカーが抱えている課題とは?
自販機のオペレーターの仕事は商品運搬用の中・大型車両を長時間運転し、釣銭と商品を補充するために担当エリア内の自販機を漏れなくチェックしたり、併設しているゴミ箱の容器を回収したりするなど、肉体的にも精神的にも大変な仕事です。日本が世界に誇る自販機ネットワークを維持する、重要かつやりがいのある業界ですが、この項で述べる課題を解決しないことには、今後の成長が鈍化する可能性があります。
課題その1「労働環境の極端な悪化」
売上本数や担当台数はまちまちであるものの、仮に1人のオペレーターが1日30台の自販機を回り、それぞれ100本の350mlの缶ジュースを補充したとすると、実に3,000本もの商品を手作業で取り扱うことになります。総重量は1トン超え、これだけでも過酷な重労働だとわかりますが、搬入トラックの駐車場が遠い場合、台車に何十キロもの商品を乗せなくてはなりませんし、商業施設内に設置されている場合は、ケースを抱えて階段を駆け上がることもしばしば。
清涼飲料水が良く売れる夏場はとくに体力の消耗が激しく、休憩もなかなか取れず運転中パンやおにぎりでお昼を済ませるといった、タイトなスケジュールになってしまうことも。
街中でも、重たい飲料を運び、忙しく働くオペレーターを見る機会があるかもしれませんが、少子化に伴う人材不足と従事者の高齢化により近年労働環境が極めて悪化しており、2008年の夏にはコカ・コーラ専門の配送下請け会社、「日東フルライン」の若手社員が過労を苦に自殺する事件が発生しています。さらに2010年4月13日、清涼飲料大手「キリンビバレッジ」子会社で自販機への充填作業をしていた社員が、その日14台目の自販機を回ったところで営業所に戻り、倉庫ビル屋上から飛び降り自殺するという、痛ましい事案も起きてしまいました。
このような状況の中2018年5月3日、サントリーグループの「ジャパンビバレッジ社」の従業員が、違法な長時間労働やサービス残業の改善を会社に求めるため、JR東京駅で大規模なストライキを実施。駅に設置された、「売り切れ」だらけの自販機を撮影したツイートは多くのRTを集めたほか、同社の名前はYahoo!でホットワードランク2位になるなど、SNSやネット上で大きな反響を呼びました。しかし、このストライキをサポートした労組「ブラック企業ユニオン」によれば、他の大手自販機メーカーの従業員からも同様の声が殺到しているのだとか。
つまり、働き方改革関連法に則って自販機業界全体が労働環境を抜本的に見直し、二度と悲しい過労死・過労自殺が発生しないよう、速やかに改善することこそ最大の課題であると言えるでしょう。
課題その2「自販機設置数・場所の最適化」
冒頭で国内の自販機設置台数と売上高が頭打ちだと述べましたが、無人かつ年中無休で商品を販売してくれる自販機は、自販機業界のトップに君臨している大手飲料メーカーにとって、手放すことのできない稼ぎ頭です。その理由は、スーパーやコンビニなど他の販売チャネルでは、商品陳列や商品管理が必要なうえ人件費もかさみ、仕入れ時に買い叩かれ収益が目減りしますが、自販機は売り上げの約4割が半自動的に利益として転がり込んでくるからです。
場所を確保する営業活動や工事・撤去、そしてオペレーションはすべて下請け・下部組織の自販機業者に依頼できますし、平均月に2,000~3,000円かかる電気代はリースした側の負担となるため、売り上げに関係なく加速度的に自販機は増えていきました。しかしその結果、過剰設置が発生。営業所から遠く離れた自販機へ定期的に向かう手間や、季節の変化や新商品が登場するたびにラインナップやレイアウトを変更する必要もあるため、オペレーターの業務が非効率的になっているのです。
利益追求は企業の絶対的な命題ですが、パーマシンが〇円以下の場合は撤去するとか、3階建て以上でエレベーターがない場所には設置しないなど、一定のルールを決め設置数・場所を最適化すべきだと言えるでしょう。
また、空き缶やペットボトルの回収を廃棄物専門業者に委託するのも手ですし、電動台車を大量購入し支給すれば、オペレーターの負担を大幅に軽減できます。もちろん、このような施策を行うにはコストも必要ですが、労働時間を短縮してサービス残業が無くなれば、従業員の流出を食い止めることもできるようになり、業務効率化という面で十分に「費用対効果」を期待できるかもしれません。
自販機がオンライン化しているって本当?
労働環境の改善や設置状況の見直しが今後の課題だと述べましたが、自販機業界・メーカーも手をこまねいていたわけではなく、オペレーターの負担を軽減するために自販機のオンライン化を現在急いで進めています。
キリンビバレッジ オンライン自販機での業務効率化を推進
飲料大手のキリンビバレッジは、自販機に設置した専用の通信モバイルで在庫状況をタイムリーに把握し、収集したデータで商品補充の効率化を図れるオンライン・システムを、2014年夏から順次導入しています。同社では従来、オペレーターがトラックに商品を大まかに積み込んで自販機の設置場所を回り、到着後に自販機から売り上げデータを取り込み、さらに一旦トラックへ戻って補充する商品を持ち出していました。
しかし、新システムでは集約データを基に作成された売上表を見ながら、必要な商品・数量だけを正確にピックアップできるため、予備を積み降ろしする労力がかからない上、自販機設置場所を効率的に回るルートも事前に設定されています。また、トラックと自販機を往復する必要も無くなったため、1台当たり平均20分かかっていた作業時間が半分程度まで短縮できたとのことです。
ダイドードリンコ IoT自販機を約5万台導入
業界第6位の売上を持つダイドードリンコは、全国に設置している同社の自販機を順次IoT化、2018年時点でブルートゥース機能を備えた約5万台が展開されており、今後も対応台数を拡充していく方針を打ちたてました。
対応自販機は「スマイルスタンド」と名付けられており、商品の購入後に専用アプリをダウンロードしたスマホを自販機にかざすと、楽天ポイントやAmazonギフト券と交換できるポイントが貯まるというもので、ヘビーユーザーを増やし収益を向上することを目的としています。
これまで、同社は1週間に1度の補充時に飲料自販機のデータを取得していましたが、スマイルスタンド対応の自販機はモバイル通信によって、日々の在庫状況を把握できるため、迅速かつ精緻なオペレーションが可能になったと言います。週次データでは、オペレーターの勘や経験に頼るしかありませんでしたが、IoT自販機の導入によって誰でも適切な積載量を把握できるようになったため、業務効率化に大きく貢献しているようです。
まとめ
大手飲料メーカーを中心に大掛かりなITシステムを導入して、労働環境改善と業務効率化を図る取り組みを進めていますが、下請けや中小自販機業者の場合はそこまで膨大なコストを割くわけにもいきません。そこで後編では、ローコストながら自販機業界が抱える課題を、着実にクリアすることも期待できる「車両管理システム」について、具体的な活用例・方法を挙げつつ詳しく解説します。