備えあれば憂いなし!今さら聞けないBCP対策とは?
地震・台風・豪雨といった自然災害だけではなく、事件・事故や不祥事などといった「予期せぬ危機」がいつ発生するかわからない今、BCP対策の策定を始める企業が増えています。しかし、BCP対策について深く理解していないが故、効果的な対策を策定できていなかったり、中には日常業務の忙しさを理由に、対策の策定を後回しにしたりしている企業まであるようです。
そこで今回は、BCP対策を策定する意義や、なぜ企業が取り組むべきかなどを整理した後、その策定方法と運用のポイントを、一定の成果を挙げている具体的な事例を交え解説いたします。
目次
そもそもBCP対策とは
BCP対策とは、企業におけるリスクマネジメントの一種で、地震・台風などの自然災害や事件・事故・不祥事などといった人的災害が発生した際、事業に関わる被害を最小限にとどめ、速やかな復旧と事業存続ができる体制を整えておくことを指します。その意味からよく防災対策と取り違えられますが、防災対策は企業の不動産・人命・情報などといった「財産」を災害から守ることが目的であり、BCP対策は「事業」を守ることが目的です。
また、企業や組織の事業は「計画・実行・確認・改善」という4つのプロセスを繰り返すことで継続・成長し、これを「事業継続マネジメント(BCM)」と呼びますが、BCPはこのプロセスの「計画」に属します。
BCP対策を策定する意義と必要性
たとえば、製造業を営む企業・A社が、まず「商品を100個製造する」という計画を立てなければ、それに必要な原材料を適切に確保することも、生産ラインや物流体制を整備することもできません。BCMにおいてはBCP対策を策定することが第一歩であり、効率的かつ実用性のあるBCP対策=計画を練らない限り、以降のプロセスは進まず事業の継続は困難になるという訳です。
また、Aが自社の生産力を大幅に上回る計画を立ててしまった場合、生産ラインや物流に無理が生じ事業が継続できないばかりではなく、しわ寄せを食らった各部署から貴重な人的・物的財産が流出することも考えられます。要するに、企業や組織にとってBCP対策の策定(計画)は基本中の基本、発生しうる様々な災害に備え効率的かつ実行可能なBCP対策を練り、その上でマニュアルの製作と緊急事態を想定した訓練(実行・確認)、マニュアルの見直し(改善)が必要になるということです。
転ばぬ先の杖!BCP対策がもたらすメリットとは
前述したとおり、BCP対策は企業・組織が事業を継続するうえで、必ず取り組むべき重要な施策ですが、その効果・恩恵は一企業の存続に留まらず多岐に及びます。
東日本大震災では、地震やそれに伴う火災・津波などの影響により、数多くの工場が壊滅的被害を受けたり、流通網も長期にわたり寸断されたりするなど、ありとあらゆるサプライの供給がストップしてしました。その結果、多くの中小企業が事業継続を断念、つまり倒産という憂き目を見ましたが、事前に万全のBCP対策を講じていた一部の企業は自社のサプライチェーンをしっかり維持し、関連会社を窮地から救うことで大きな信頼を得ました。
これほど大規模な災害が発生すると、水道・ガス・電気・通信・交通などの生活インフラにまでダメージが及び、企業活動はおろか生命維持さえ困難になることもありますが、BCPには災害時に企業が社会貢献を行うという側面も一部含まれています。たとえば、飲料・食料品メーカーの場合なら、ミネラルウォーターや非常食などの支援物資提供を、ホテルであれば帰宅難民の受け入れなどを、BCP対策の一環として組み込み実行することで、社会貢献に積極的な企業という評価が高まります。
こうして得た信頼と高い評価は、企業にとって大きな財産となり、自社の利益だけにとらわれることなく、社会的責任や道義をわきまえたCSR活動に積極的な企業として、顧客や取引相手はもちろん、投資家にも良い印象を与えるでしょう。
BCP対策の策定方法と具体的な事例
この項ではBCP対策の策定手順・方法と、そして成功事例についてご紹介します。
外部委託すべきか、はたまた自前で策定すべきか
BCP対策の策定が企業にとって非常に大切で、メリットも大きいことは十分に理解できたものの、実際にBCP対策を策定することが難しいという場合は、BCP対策に詳しい外部コンサルや行政書士に頼るのも一つの手です。
行政書士の方が外部コンサルより、人事や商取引などに関する法務に明るい半面、業界ならではの事情やIT・システム関連の知識に疎い傾向にありますが、費用的には数十万円からと安く上がるのがメリットです。一方、外部コンサルは業界の事情や市場動向に即した、きめ細かなBCP対策を立案してくれますが、費用的には100万~200万円が相場とかなり高くなってしまいます。
いずれにせよ、BCP対策に関する知識の深さや経験などには大きな差があり、策定のサポートやアドバイスに留まるところから、計画の立案・実行・確認・改善までじっくり付き合ってくれるところまで様々なので、外注先はじっくりと慎重に決めるようにしましょう。
緊急事態時の行動指針を外部には任せられない、時間がかかってもいいから自前でBCP対策を策定したいという場合は、経済産業省や中小企業庁から出されている「BCPガイドライン」を参考にするのがおすすめです。
経産省のガイドラインは基本的な考え方から策定の大まかなプロセス、リスクの分析方法や体制づくり・教育まで、一連の流れが全52ページにわたって網羅されています。ただし、資料として膨大でやや表現方法も堅苦しいため、専門の担当者がじっくり時間をかけて策定する分には良いですが、日常業務の合間に対応するには少し時間を要するでしょう。その点、中小企業庁のガイドラインは、策定者の知識量に応じ「入門・基本・中級・上級」とコース」が分けられているほか、言葉使いや表現も柔らかめで分かりやすいため、策定が進めやすいかもしれません。
三菱電機 県外関連工場での増産で不足分を補てん
国内第2位の売上高を誇る、大手総合電機メーカーの三菱電機は、「サプライチェーンにおける事業継続」を自社BCP対策の指針として掲げています。
具体的には、現在稼働中の生産拠点が災害に遭遇、壊滅的な被害を受け生産が困難な状況に陥っても、別の場所に拠点を移すことで生産継続を目指すというもので、複数の生産拠点を分散して有する巨大メーカーにとっては非常に効率的なBCP対策です。
事実、2016年4月の熊本震災で三菱電機は県内2か所の生産拠点が被災し、半導体を製造するうえで欠かせないクリーンルームが壊滅的ダメージを受けましたが、BCPに則って県外にある生産委託先工場の生産量を増やすことで、不足した生産量を補いました。同時に、本社から応援エンジニアを現地に派遣し復旧作業を進めた結果、震災発生から1ヶ月経たない翌月10日には、被災した熊本県内の工場が2ヶ所とも再稼働にこぎつけています。
ホンダ 過去の大震災を教訓に耐震工事を完了
過去に発生した災害での被害状況を教訓にBCPを見直し、事業所の耐震工事や非常用通信網・災害備蓄品の整備などといった対策を進めた結果、再び訪れた危機に動じることなく、早期の事業再開を果たしたのが、大手自動車メーカー・ホンダ自動車です。
ホンダは2013年3月に策定した「BCPポリシー」の元、首都直下地震や南海トラフ地震などの大規模地震を想定した対策を講じていましたが、熊本震災で国内唯一の2輪車製造拠点が被災しました。しかし、東日本大震災発生後にBCPを根本から見直し、耐震工事や水・食料などの備蓄、従業員の避難訓練などの備えを着実に進めていた結果、熊本震災時も慌てることなく、被害を最小限に食い止めることができたそうです。
東京エレクトロン 取引各社との連携で危機を回避
災害は企業の規模に関わらず降りかかってきますが、前述した三菱電機やホンダ自動車のように、生産拠点の移行や耐震工事などといったBCP対策の策定・改善に、多くの人員やコストを費やせる企業ばかりではありません。一企業として万全のBCP対策を講じるのが難しいのなら、関連企業や取引先と密に連携し業界全体で災害に備えよう。そうした考えで成功した例が、半導体やFPD製造装置の開発・製造・販売を手掛けている東京エレクトロンです。
同社は、数多い取引先拠点の生産力などをデータ化し、それを関連企業間で共有することによって、災害発生時の速やかな被害状況把握及び復旧への取り組みを、業界が一体となって進められる体制を整備したのです。東京エレクトロンは、熊本震災で九州にある主力工場が被災しましたが、取引先との連携で迅速な対応ができ、効率の良い復旧作業を進められた結果、震災発生10日後の4月25日頃から、段階的にではありますが生産再開にこぎつけています。
同社のように、生産した部品を取引先に納品するサプライ企業にとって、取引先がいつどの程度の量の部品を必要とするかを数的データで把握し、それに則って復旧スケジュールを決めるという作業は、BCP対策に必ず盛り込んでおくべき項目と言えるでしょう。
まとめ
現在、私たちは新型コロナの感染拡大という今までかつてない危機に遭遇していますが、今後、コロナが去った後にどんな災害が訪れるか誰にもわかりません。BCP対策は、企業や組織が危機に生き残っていくために不可欠な命綱です。時間と労力、そしてコストが必要ですが、いざという事態に備えて策定しておくのはもちろん、状況に合わせ定期的に見直しやアップデートするようにしましょう。