【対談】たしかな技術と50年の歴史を持つユピテルがスマートドライブと連携!ハイブリッドで高精度なドラレコ誕生秘話
2019年12月、改正道路交通法の施行により、運転中にスマホを注視したり操作したりする「ながら運転」の厳罰化。重大事故につながり世間を震撼させたあおり運転。車の安全運転性能は年々向上していますが、こうした人的要因による事故は後を絶ちません。
事故の記録を収めるために、そしてドライバーを危険から守るためにも、個人、法人問わずドライブレコーダーへの関心が強まっています。そこで、安全運転意識の向上と事故防止に対する機能を強化すべく、スマートドライブはユピテル社協力のもと、2020年2月よりLTE 通信型ドライブレコーダー「SmartDrive Fleetドライブレコーダー」の販売を開始しました。
今回はユピテルでゼネラルマネジャーを務める石橋 篤さまをお招きし、協業に至った背景から今後の展望まで、ドライブレコーダー×車両管理システムを提供する企業の新たな可能性を探りました。
[インタビュイー] 株式会社ユピテル マーケティング部 ゼネラルマネジャー 石橋 篤(いしばし・あつし)さま
目次
ユピテル〜50年の歴史と進化を続ける技術
弘中:まずは、石橋様のご経歴について簡単に伺えますか。
石橋:もともと広告代理店に務めていましたが、15年ほど前に転職をしてユピテルに入社。マーケティング部のゼネラルマネージャーとして、法人・個人向け両方のプロモーションに携わっています。
創業は1970年、50年もの歴史を持つユピテルは、ユピテル音楽工業というレコード会社として設立されました。開設当時は今で言う、avexやポニーキャニオン、コロンビアのように、アーティストを抱えるレコード会社だったのです。しかし設立から間も無くカラオケブームが到来し、同じ音楽という枠組みでカラオケセットを中心とした音響機器を手がけるように。そして同じ頃、輸出用にレーダー探知機を作り、アメリカに販売をしていました。
弘中:お話を聞いていると、もともとメーカーとして始まったわけではありませんので、技術者がいらっしゃらないように感じますが…機器の開発にあたって技術者の採用を強化したのでしょうか。
石橋:ユピテルが技術者を雇用するようになったのは、カラオケ関連の機器を作り始めてからのこと。ここから、ユピテルの本格的な機器開発の歴史が始まります。とくに、70年代から開発に着手したレーダー探知機はユピテル独自のコア技術であり、技術の集大成ともいえるもの。当時から現在に至るまで、性能を高めるためにさまざまな技術、ノウハウを積み重ねてきました。そのレーダー探知機にはマイクロ波と無線技術が搭載されていますが、この技術を活かして家電やカー用品など製品の幅を広げ、現在ではカー用品をメインに展開しています。
時代とともに変わるニーズに対応し続ける、ユピテルのドライブレコーダー
弘中:御社がドライブレコーダー(以下、ドライブレコーダー)の販売を始めたのはいつからでしょうか。
石橋:2009年からです。
弘中:御社の歴史から考えると最近のことなのですね。
石橋:そうですね。とはいえドライブレコーダーが生まれたのも2000年代です。現存する個人向けのドライブレコーダーメーカーとしては弊社が最古参です。
弘中:御社は非常に商品のレパートリーが豊富で、前後2カメラ、全方位720°、夜間に強いスーパーナイトなど、さまざまな種類のドライブレコーダーを提供されていますが、現在は全部で何種類くらい販売されているのでしょうか。
石橋:そうですね、法人向けと個人向けをすべて合わせると30以上はあるでしょうか。
弘中:すごいですね、新製品はどれくらいの頻度で発売されているのでしょうか?
石橋:ラインナップにもよりますが、個人向けの製品は最低でも1年に1回は新しい製品を展開し、法人向けはもう少し長いスパンでサイクルを回しています。
弘中:法人向けと個人向けの双方のドライブレコーダーに取り組まれてますが、それぞれどのようなニーズがあるのでしょうか?
石橋:個人向けのドライブレコーダーでは、お客様が一番気にされるのは価格です。安くても高機能・高品質が求められますので、海外である程度の台数を作るようにして価格を抑えるようにしています。
法人向けでは、価格よりも品質やアフターフォローなど、企業としてのバックアップを期待されることが多いですね。多品種少量生産と短納期を求められるので、鹿児島の自社工場(ユピテル鹿児島)で製造しています。いずれもドライブレコーダーという基本思想は同じですが、細かいスペックに違いがあります。
弘中:細かなスペックというと、どのような機能が大きく違うのでしょうか?
石橋:法人向けの製品はデータのフォーマットを変えて、セキュリティをより強化しています。
弘中:昨今、あおり運転による悲痛な事故のニュースが数多く報道されています。このような事件を受けて、ユーザーから求められる機能は変化してきたのでしょうか。
石橋:追い抜き車線に止められ、後ろから突っ込んで来たトラックに命を奪われてしまった、東名高速夫婦死亡事故は、世間的に大きな影響を与えました。連日ニュースで取り上げられたことで、多くのドライバーに「煽り運転を避けるためには後方にも注力すべきだ」という意識が芽生え、前後方の2カメラモデルが一気に注目されました。弊社も含め、各メーカーから販売されていますが、今は2カメラモデルが主流となっています。
また、ここ最近では常磐自動車道で起きたあおり運転暴行事故によって、車内も撮影可能なドライブレコーダーが話題になりました。この事件は、車内で起きた暴行行為が鮮明な映像で記録されていたことで刑事裁判が確定しています。つまり、決定的な証拠としてドライブレコーダーの映像が大いに役立ったと。こうした事件を背景に、今は個人も法人も前後はもちろん、車内も撮影できる機能が求められています。
弘中:そうなのですね、少し話は変わりますが、我々にはバイクの移動データを分析したいとご依頼いただくことがあります。
体がむき出しのバイクは簡単に自動車間のすり抜けができますが、車の死角に入りやすく非常に危険です。御社はバイク向けのドライブレコーダーも提供されていますが、引き合いはございますか?
石橋:そもそもバイクのドライブレコーダーを製造しているメーカーが少ないので、引き合いは多いですね。
バイクの場合、事故が発生するとライダーが大きな怪我を負う、または亡くなる確率が車より高くなります。ライダーが亡くなると、事故の原因や過失がどこにあるのか、誰もライダー側の立場で証言することができません。そうすると残された遺族の方は当然悔しい思いをしてしまう。しかし、事故前後の映像をしっかりと残すことができればライダーに過失がなかったと証明できますから、命に関わる重要な局面において、ドライブレコーダーの映像が非常に重要な役割を果たしてくれるのです。
互いの強みを欲していた−−スマートドライブとユピテル、協業への道のり
弘中:今回SmartDrive Fleetとユピテルのドライブレコーダーを連携させていただくことになりました。貴社のような歴史のある企業様がスマートドライブにお声がけいただけたのは何故だったのでしょうか?
石橋:ドライブレコーダーのビジネスを継続する中で、かなり前から「今後は通信型のドライブレコーダーが必要になる」と確信していました。
通信型となると、クラウド上に大容量の映像データがアップされ、膨大な量のデータのやりとりが発生します。そのデータを活用してドライバーや車両の管理ができる高精度なサービスを販売しようと、弊社なりに試行錯誤をしてきましたが、いかんせんモノづくりのメーカーですので、どこからどのように手をつければいいのかわからない。
それまで、自前主義を貫いていたユピテルは、自社の資源を活用して自社内で考えて作る方針でしたが、移り変わりが早い今の時代において、スピーディーにソフトを作る力が足りなかったのです。着実に実績を残してきましたので、引き合いも少なくありませんでした。一般的なドライブレコーダーも通信型ドライブレコーダーも多彩なラインナップを揃えていましたので、自信を持って対応してきましたが、「ドライブレコーダーで取得したデータを活用したサービスの提案はありますか?」との問いだけには、回答ができず対応に苦慮することも…。今後、確実にニーズが増えていくと感じていたのです。
しかしこのまま自社のみでサービス部分を開発するとなると、数年はかかってしまうだろう。それに、完成した頃には時代が変わって、異なるニーズが生まれていたり、サービス自体が古いものになっていたりするかもしれない。ならば、すでにサービスを確立している企業と組んだほうがお互いの強みを活かし、双方にメリットがあるのではないかと考え、スマートドライブ社と組むことを決意しました。
最初のきっかけは、日本経済新聞にスマートドライブと弊社が車のデータ活用というテーマの記事で取り上げられたこと。そこから連絡を取り合うようになり、今に至ります。
弘中:スマートドライブではお客様から危険運転の発生箇所を動画でも確認したいとの要望を多くいただいており、どのように動画撮影機能を追加すべきか頭を悩ませていました。
私たちはユピテルさんとは逆で、ものづくりのメーカーではないため、ハード面の開発が得意ではありません。しかしお客様からは、急操作が起きた際の原因や理由が明確に知りたいから、挙動前後の様子をおさめた動画が欲しいとご要望をいただいておりました。
交差点で信号が黄色になったからなのか、人が急に飛び出してきたからなのか、その原因を把握できなければ、会社としては本当の意味での安全運転は実現できないのではないかと言われてしまって。たしかに、お客様のおっしゃる通りですし、私たちとしても希望に答えたい。そうした理由から、他社のドライブレコーダーと連携ができないかと模索している最中だったのです。
石橋:お互いの弱点をカバーし合える関係だったので、トントン拍子で話を進めることができたのではないでしょうか。実現できて、本当に良かったと思っています。
コラボレーションによってもっと高度なサービスを実現
弘中:今回の協業で、スマートドライブに期待することはなんでしょうか。
石橋:もっとも期待を寄せているのが、ソフトウェア開発です。私たちが聞いたお客様の声を素早くスマートドライブにフィードバックすることで、充実した機能と利便性の高いサービスを迅速に提供できるようになると考えています。
弘中:我々は現在ですと月に1度ほどの機能アップデートをしております。
これからご利用いただくお客様のニーズに応えていくために、ユピテル社だから安心できるという老舗ならではブランド力と、弊社のサービス企画力がうまく連携して互いの長所を引き出しあい、より高価値なサービスを提案できればいいですよね。
また、今後さらに営業連携も強化できればと思っています。
静岡からはじまり、最近では大阪への営業活動もご一緒させていただいております。私たちはハードウェアの質問にはなかなか答えられないですし、規格についても詳しくありません。その点においては、まだまだ御社から学ぶことが数多くあります。御社からハードウェアの正しい販売方法を教えていただきながら、強力な拡販体制を作るという部分でも良い連携ができればと。
石橋:ユピテルは老舗ですがフットワークの軽い会社です。お互いのフットワークの軽さを活かして、一緒に成長していきましょう!
弘中:現在は静岡拠点を中心に連携させていただいております。
石橋:静岡は様々なプロモーションを実施していますのでユピテルの認知度が非常に高く、弊社にとって重要な拠点なのです。
静岡の次としては、九州に着目しています。実は3月から福岡ソフトバンクホークスのオフィシャルスポンサーになりました。福岡は地元意識が非常に高く、地元の球団を応援する方が多いので、ソフトバンクを応援する企業として認知していただき、地元の方々に受け入れてもらえるように努力しているところです。
弘中:スマートドライブは現在、東京、大阪、東海の3拠点で営業活動をしていますが、対象エリアを拡大している最中ですので九州はもちろん、他のエリアでも是非ご一緒したいですね。
石橋:そうですね、是非!
弘中:私自身、さまざまな地域を巡る中で地方のほうが課題も多く、安全運転支援ができるドライブレコーダーへのニーズが大きいことに気づきました。
私は北海道出身ですが、北海道は雪が降りますし、広大な土地なので車がないとほとんど生活ができません。生活するための移動手段として車が欠かせません。そうなると運転頻度や走行距離、走行時間は都心部より断然地方の方が高くなり、事故が発生する確率も上がります。ですので、さまざまな地域へ足を運んで、サービスの認知度を上げながら安全運転意識の向上と事故削減を実現していきたいと思っています。
時代に合わせてスピーディかつ柔軟なサービス展開を
弘中:最後に、スマートドライブへ一言お願いします。
石橋:スマートドライブとは現在、法人向けサービスを一緒に開発していますが、このサービスをベースとして今後は使いやすく安価な個人向けサービスを提供できればと考えています。通信型のドライブレコーダー自体、まだ一般のお客様には周知されていませんが、今後必要とされる、もしくはお客様が使いたいと思うサービスとして展開できれば、もっと安全運転が広がっていくのではないでしょうか。
弘中:現在、スマートドライブでは鉄道会社様と共に沿線上にお住まいの方々に安全運転を提供するプロジェクトを進めており、この中でも動画へのニーズが出ています。たとえば、見通しの悪い十字路でどんな危険運転がされているのか、具体的な行動がわかれば事故を未然に防ぐことができるとか。事故が起きやすい道路では、普段からどのような運転をされているのかとか。自治体にドライブレコーダー機能を搭載した車両管理サービスを提供し、近隣の方たちに向けて十字路で急ブレーキを踏んだシチュエーションや子どもの飛びだしが多い道路をリアルタイムにシェアすることで、徹底した安全運転の啓蒙ができるのではないでしょうか。
個人向けには、ドライブレコーダーを搭載して安全運転していれば、車を買取に出す時に高く売れるサービスとか。さまざまな観点からサービスの展開が考えられそうです。
石橋:個人の場合、何らかのメリットがないと費用をお支払いいただくわけにはいきませんしね。
弘中:また、あおり運転防止や安全運転のためだけでなく、ドライブレコーダーがあるから運転が楽しくなるような、ゲーミフィケーションの要素を取り入れれば、今までとは違った角度で運転の楽しさを訴求できそうです。
石橋:5Gが浸透すれば、今まで実現できなかった多くのことが実現可能になるでしょうね。
弘中:そうですね、今後も打ち合わせを重ねながら、次々と登場する新たな技術で何かを実現できるよう手を組んでいきましょう。本日はありがとうございました。